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第7章 十五夜(満月)

とんでもない内容を武田はすらすらと淀みなく告げる。

その表情には特に感情は宿っていなかった。

「大人に……なりたくない――?」

月哉は怪訝な顔をする。

「社長……半年位前、雅様が激痩せしていらした時期がありました」

東海林が呟く。

「……ああ、成長期で身長も延びたからだと思っていたが――」

「雅ちゃんに直接確認した訳ではないのですが、恐らくその頃に初潮を迎えたのではないでしょうか」

武田医師が続ける。

「生理が始まった雅ちゃんには焦る理由があった。いつまでも少女のままでいなければ愛されないという恐怖感、大人になると不都合な事になるという強迫観念……そんなところでしょうか」

「……恐怖感? ……強迫観念?」

月哉は訳が解らないという様子で、武田の言葉を繰り返す。

東海林は震える声で、武田に向かう。

「もし、先生が仰ったことが本当だとしても、貴方は十三歳の少女に言われるがまま、薬を出し続けたのですか! 成長期に半年もそんな薬を服用して、雅様の体は――っ!」

東海林は殴りかかりたい衝動に駆られながら、武田を責める。

「そうしなければ雅ちゃんは追い詰められて、今日の様に自らの命を断つおそれがありました。現に、初めて薬を貰いに来た時、拒食症になっていましたから」

武田は東海林の視線を受け止め、しかし強く言い切った。

「……拒食症」

東海林は怒りをぶつける相手をはかりかねる

「雅ちゃんが一週間前に薬を受け取りに来たとき、もう薬でも心を保てなくなっていると感じました」

武田は初めて感情をあらわに、悔しそうに顔を歪める。

「栄養剤に紛れ込まして、さらに強い精神安定剤を渡しましたが……飲んでくれなかったようですね」

「……さらに強い?」

東海林が怪訝そうに聞き返す。

武田はクリスタルの欠片を放る。

キラキラした欠片は放物線を描き、かしゃんと華奢な音を立ててゴミ箱に消えた。

「あれは……抗うつ薬と抗精神薬、漢方を混ぜたものです」

「じゃ、じゃあ雅は――」

黙り込んでいた月哉が、助けを求めるように武田を見上げる。

「いくら子供しか愛せないと言っても、これでも医師ですからね……健全な少年少女にそんなもの、処方しませんよ」

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