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第8章 十六夜月(いざよい)

雅はそれから一週間、意識が戻らなかった。

何度も徐脈になり、月哉、東海林、加賀美は毎日入れ替わり立ち替わり、様子を見に来ていた。

「……雅様、貴女は目を覚ましたくないのでしょうか――」

仕事帰りに見舞いに来た東海林は、暗い病室に寝かされている雅に話しかける。

頬は痩け生気もなく微動だにしない雅は、既に死んでいるように見える。

東海林は恐怖を感じてはまだ暖かいその頬に触れ、安堵する事を繰り返していた。

「目を覚ましても、貴方には辛い現実かもしれない……でも、それでも、我が儘でしょうか……私は、私達は貴女に生きていてほしいのです――」

東海林は雅の手を取りぎゅっと握ると、担当医に今日の雅の様子を聞く為、病室を出た。



静かにスライド式の扉がしまる。

雅の瞼が、ゆっくりと開かれる。

薄暗い病室の中は心電図の機械的な電子音と、人工呼吸器のシュウシュウという音がするだけで、人の気配はない。

頬の肉が削げ落ち妙に大きく突き出て見える黒い瞳だけが、緩慢な動作で動き始める。

痩せ細った腕で人工呼吸器を外すと、点滴チューブ、心電図をしんどそうな動きで引き剥がした。

少し動いただけで息切れする体に鞭打ち体を起こした雅は、怪訝な表情で周囲を見回した。

「……ここは……どこ――?」



担当医に今日の処置等を聞いた後、東海林は帰る前にもう一度雅に会いに行こうと思った。

リノリウムの床をキュッキュッと音をたて、照明の落とされた長い廊下を歩く。

まるで出口の無い長いトンネルがその先にどこまでも続いているような気がして、東海林は頭を振ってその考えを追い出した。

特別室にたどり着くと、扉が開け放たれていた。

「………………」

ベッドの上は、もぬけの殻だった。

点滴チューブからは薬液が床へ滴り落ち、心電図のピーというエラー音が鳴り響いていた。

心電図のエラーをナースステーションで確認したのだろう、ナースが一人走ってきた。

「どうされましたか?」

立ち尽くしている東海林に、ナースが問いかける。

「雅様が……居なくなりました」

「なっ! と、とにかく遠くには行っていないと思います、さっきエラーを確認したばかりですから」

まだ若いナースは、慌てて辺りをきょろきょろ確認する。

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