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第8章 十六夜月(いざよい)

(目を覚ました雅様が、もう一度死のうと思っていたら――!)

「私は屋上を見てきます!」

東海林は非常階段の表示がある方向へ向かって走り出す。

特別室は最上階にあるため、非常階段を昇れば直ぐ屋上だ。

薄暗い階段を昇りきると、屋上へ続く扉が半開きになり、風でキイキイと不気味に揺れていた。

「雅様!」

暗い屋上の真ん中に、白い病院服を着た人影が見える。

月光に照らされた雅は風に服と長い髪をぱたぱたとはためかせながら、月を見上げていた。

その姿は身体の内側から発光しているかのように、全身が薄く光って見えた。

東海林は目をこすったがそれは見間違いではなく、変わることなくそこに存在していた。

「雅様――?」

呼ばれた本人はゆっくりと振り向くと、東海林を見つめてぽつりと呟いた。

「……あなた、は、……だあれ?」

吊るされていた糸がプツリと切れた人形のように、雅は膝から地面に倒れこんで意識を失った。

「雅様――っ!」

駆け寄って脈がある事を確認すると、すぐ横抱きして階段を下り病室へ戻る。

雅の身体のあまりの軽さに、東海林は目頭が熱くなった。

担当医師がすぐ処置に駆けつけた。

「雅様は意識を戻されたのですね?」

医師が雅の体に外傷がないことを確かめながら聞く。

「はい。ご自分で起きて屋上に行かれたようです。……しかし、一週間眠り続けた拒食症の雅様に、短時間でそんなことが可能でしょうか」

東海林は腑に落ちないという風に、痩せ細った雅を見つめる。

「……通常は、あり得ないでしょうね」

医師は痩せた腕に注意深く点滴を挿し直し、病院服の前の合わせを開いて真っ白い、膨らみのほとんど無い胸に心電図をつけなおした。

「それに……雅様は私に『あなたはだれ』と聞かれました」

医師は東海林を振り返ると、眉を潜める。

「記憶障害……とまでは言いきれませんが、気を付けて見る必要がありますね、運ばれた時の精密検査では、脳波に異常はありませんでしたが……」

社長と加賀美に連絡し朝まで自分が付いていると言うと、医師は何かあればナースコールしてくれと言い残し出ていった。

医師を見送り、雅のベッドの横にパイプ椅子を引いて座る。

顔色は青白く生気の感じられない様は、まるで陶器で出来た人形のようだった。

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