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第2章 晦日(つごもり)

その日は午後の授業の前からずっと下腹部が痛く、重い感じがしていた。

雅には理由が思い当たらず、最初は我慢が出来ないほどの痛みではなかったので授業を受けていたのだが、時間が経つにつれその痛みは増していった。

授業の邪魔にならないよう講義をしている教師に挙手で合図をすると、教師が雅の席まで近づいてきた。

「どうしました、鴨志田さん?」

「すみません、講義を中断させまして――。体調が悪いので、保健室に行ってきても宜しいでしょうか?」

額に脂汗を浮かべて苦しそうにしている雅に、教師は付き添いを付けようか申し出てくれたが、雅は丁重に断り教室を出た。

講義中の廊下はしんとしていた。

意識が遠くなりそうな腹部の痛みに、もしここで私が倒れても授業が終わるまで誰にも気付かれないのだろうな――と、ふと弱気なことを考えてしまう。

雅は自分を奮い立たせて歩き出したが、四階の教室から一階の保健室への道のりが、酷く遠くに感じられた。

(取り敢えず、理事室で休もう)

この鴨園学園は雅の家、鴨志田一族の学園だ。

初等部から大学部まで一貫教育を行っており、各部には鴨志田と分家・宮前の子息子女の為に、理事室なるものが設置されている。

高級ホテル並みに整えられた設備と内装で、理事代行として生徒会執行部に席を置く職務柄、何泊かすることを前提に作られていた。

教室と同じ四階にある理事室の入り口になんとかたどり着き、カードキーを使って中に入る。

痺れた様に重い両足にムチを打ち、ソファーで横になろうとなんとか歩を進めると、ミニスカートの太ももに何か液体が伝った気がした。

何だろうと少しスカートをめくって見ると、太ももに一筋、禍々しい朱色の血液が伝っていた。

(――怪我でもしたのかしら?)

少し気が動転した雅は、血液を洗い流そうとバスルームにあるガラス張りのシャワールームに、セーラー服のまま飛び込む。

刹那――

再び腹部を鈍痛が襲い、腰から下が痺れる。

立っていられなくなった雅は、タイル張りの床にずるずるとへたりこんでしまった。

床に付いてしまった血がまるで意思を持つ生き物のように広がり、蜘蛛の糸を張り巡らせて行くように床を赤く染め上げていく。

お腹の痛み、血……。

雅はそこで初めて、己が初潮を迎えてしまったことに気がついた。

               
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