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泳ぎ疲れた人魚の恋
第1章 1
 他の部員たちにはそのうちバレて、嫉妬によるいじめが有希也をおそったが、どんなに傷ついても、先輩に抱きしめられたら、すべて癒えるような気がした。
 背徳的なこの関係を、有希也は直樹にかくしていた。彼の寝室で会うときには彼だけをみて、ときどき、額や頬にキスをした。どちらをより好きかとか、浮気だとかは、考えたこともなかった。二人とも大切で、どちらも、恋とはまた違う感情だった気がする。先輩に向けるのは、熱を帯びたあこがれで、病弱な直樹への思いは、弟への慈しみに似ていた。
 先輩には何度も抱かれたけれど、一種のスポーツのように感じていたので、店での行為とはまるで違うと思う。過去に同性との経験があるとはいえ、「それは秘密にしておこう。初めてって言ったほうが喜ばれるし」と店長に口止めされた。そういうわけで、店では「未経験」ということになっている。
 直樹が、有希也と晃司のことを知らないまま深い眠りについたのは、ある意味ではよかったのかもしれなかった。純粋で、恋をしたこともないような彼が、有希也の肉体を使った交わりの話を聞いたら、病が余計に重くなっただろうから。
 何も間違ってはいないのだと自分に言い聞かせながら、有希也は、店に借りてもらったマンションのエレベーターに乗った。
 独りで生きていく彼がこの先頼るのは、弟のようにかわいがってくれる美貌の店長と、自分自身と、この先現れるかもしれない金満家の客以外になかった。


 自室のベッドで、死んだように眠りをむさぼって、再び夜が来るのを待つ。同性相手のホストクラブで働き始める前は、飲食店と夜間警備を掛け持ちしていたが、身体ももたず、借金もなかなか減らなかった。
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