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色欲のいりひ
第1章 1
 畳の上でのテント生活も、だいぶ慣れてきていた。一人用のテントだが、かなり奥行きがある。詰めて入ればふたりは入れる。重なり合えば3人は入れる。
 今度茉莉を呼ぼう。
 そして、このテントの中に放り込み、俺を支配する何者かを喜ばせよう。
 さすれば悦楽の世界に浸れる。
 そして、俺自身も苦しみが半減する。いや、苦しまずに済むかもしれない……。
 終の棲家とはよく言うが、俺はこの部屋を終の棲家にしたいと思っている。
 一部屋増えて、三部屋になった。
 とても空虚な時間だ。
 この名も無き時間に名前でもつけてやろうか? 
 吾輩は時間である。
 名はまだ無い。
 そんなB級な詩人が、いかにもつけそうな、言葉遊びをみつけだそうと、俺の脳みその中は、時間というやつの名前を探すことに、必死になっていた。
 ひもすがら部屋の中に閉じこもっていると、曜日の感覚すら失う。
 毎日が日曜日の俺にとって、曜日というものは必要のないものなのだが……。
 テントの中にいると、
「瞑想でもするか」
 そんな気分に陥る。
 今日は何曜日だ。
 スマホを手に取り曜日を確かめると、土曜日だった。
「そうか、土曜日か…… なら、今日は水曜日にしよう。俺にとっては、今日は水曜日だ。それでいいのだ」
 窮屈なテントの中で、思わず念仏を唱えるかのように、独り言をつぶやいていた。
 俺はテントから這いつくばるようにテントの外に出る。
 部屋の窓をあけるとカラッとした、あたたかい空気が体をすり抜けた。
 すっかり、春になっていた── 。
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