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色欲のいりひ
第4章 4
 汗まみれの裸体の茉莉は苦しそうにお腹を押さえながら、這いつくばるようにしてお丸へと向かっている。
 そしてお丸をまたいだ。
 勢いよく下痢便がお丸にぶつかる。
 その音を聞いて何事か? という表情をみせながら通行人たちが一斉にこちらを振り向く。
 立ち止まりながらこちらをみている。テラスの高さは150cmくらい。大人の男性なら、部屋の中を見渡せる。俺はその通行人たちと目線があった。それを気にしたのか、通行人たちはいきなり目をそらし、そのまま素知らぬふりして立ち去っていく。
 何を遠慮しているだろう、あの通行人たちは。見たければ見ればよいのに……。
 中には興味本位でテラスの方に歩み寄ってくる強者もいるが、テラスのコンクリートの壁で、茉莉がお丸をまたいでいる姿はみれない。
 茉莉はいつもとはちがい平然と下痢便をやってのける。いかにも、
「みたければ勝手に見れば」
 とでも言いたげのようなふてぶてしい表情と態度であった。
 なんだか少し、しらけていた。
 アイツが求めてるのは、こんなにもつまらないものなのだったのかと……。
 ── 気が付くと、西日が眩しかった。どうやら寝落ちしてしまっていた。
 おかしい。
 西日を受けているはずなのに、起き上がれる。
 何かが俺の中で変わり始めていた。
 そんな不思議さを感じながら、部屋の中に入ると、部屋の片隅に布団が畳んで置いてあった。
 俺はその布団をじっとみつめた。
 何かが変だ。
 その何かはわからない。
 時計の針が逆回りするのとは、また何かが違う。
 うまく言えない。
 だけど、何かが違う……。
 俺は今、西日を全身に浴びている。
 これは夢ではない。
 現実だ。
 アイツが俺の中から完全に姿を消したようだった…… 。
 なんとなく涼しく感じていた。
 きっと俺は普通の営みというものを一生涯知らずに生きていくのだろう。そして知らないままこの世を去る。それがどれほど惨めなことなのか。誰にもわかりはしない。
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