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色欲のいりひ
第5章 おげんきですか
お元気ですか
── なんとなく10年くらいたった夏の日。俺の部屋の扉をたたく音が聞こえてきた。
俺はあくびをしながら、玄関に向かう。
扉の向こう側の人物を確かめるかのように、扉をゆっくりと三分の一ほど開けた。
するとそこに立っていたのは、うつむき加減だが、50代くらいの女が立っていた。ふたりのあいだにしばしの沈黙があった。
俺は扉を開けた。
「入れよ」
すると、
「お久しぶりです。お元気ですか…… 」
と言い中へ入る。
── 茉莉はあの頃と変わらず、窓辺で足を崩して座っている。茉莉が出所して来た。なんだか皺が増えていた。やつれた感じもする。俺が警察に捕まった後、茉莉が警察に来て自らの犯行を自供した。それで俺は釈放された……。
なぜあの時茉莉が自供してきたのか、そしてなぜご主人を殺めたのか。そのことに関しては、一切触れないようにした。いや、そんなことを知る必要性がないと思ったからだった。
あの日と変わらず、いりひが強烈に差し込んでくる。
だが不思議なことに、俺の中の何者かはピクリとも反応しない。
色欲のいりひは、もうこの世には表れない。
そしてアイツは消えた。
色欲のいりひとともに…… 。
そしてアイツが俺と茉莉を再び導いてくれた。
「貴方のそばに置いてください。部屋の隅っこの方で構いませんので」
「ああ、勝手にしな」
茉莉は外を見たまま俺にお言葉を投げかけた。
そのお言葉に俺は答えてやった。
「相変わらず好きね、その場所が」
俺はテントの入口を開けたままにしていた。
「一緒に入るかテントの中」
「遠慮しとくわ、暑苦しいから」
「欲がねぇな」
「貴方みたいに色欲はないもの」
俺は四つん這いになりながらテントの外へ出る。
そして畳の部屋の真ん中で胡坐をかいて座る。
── なんとなく10年くらいたった夏の日。俺の部屋の扉をたたく音が聞こえてきた。
俺はあくびをしながら、玄関に向かう。
扉の向こう側の人物を確かめるかのように、扉をゆっくりと三分の一ほど開けた。
するとそこに立っていたのは、うつむき加減だが、50代くらいの女が立っていた。ふたりのあいだにしばしの沈黙があった。
俺は扉を開けた。
「入れよ」
すると、
「お久しぶりです。お元気ですか…… 」
と言い中へ入る。
── 茉莉はあの頃と変わらず、窓辺で足を崩して座っている。茉莉が出所して来た。なんだか皺が増えていた。やつれた感じもする。俺が警察に捕まった後、茉莉が警察に来て自らの犯行を自供した。それで俺は釈放された……。
なぜあの時茉莉が自供してきたのか、そしてなぜご主人を殺めたのか。そのことに関しては、一切触れないようにした。いや、そんなことを知る必要性がないと思ったからだった。
あの日と変わらず、いりひが強烈に差し込んでくる。
だが不思議なことに、俺の中の何者かはピクリとも反応しない。
色欲のいりひは、もうこの世には表れない。
そしてアイツは消えた。
色欲のいりひとともに…… 。
そしてアイツが俺と茉莉を再び導いてくれた。
「貴方のそばに置いてください。部屋の隅っこの方で構いませんので」
「ああ、勝手にしな」
茉莉は外を見たまま俺にお言葉を投げかけた。
そのお言葉に俺は答えてやった。
「相変わらず好きね、その場所が」
俺はテントの入口を開けたままにしていた。
「一緒に入るかテントの中」
「遠慮しとくわ、暑苦しいから」
「欲がねぇな」
「貴方みたいに色欲はないもの」
俺は四つん這いになりながらテントの外へ出る。
そして畳の部屋の真ん中で胡坐をかいて座る。