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純愛ハンター
第9章 裁き9、プリティベイベー
「あの、厄病神め…!」

男は焦っていた。自宅へ戻る車の中でついそう呟いてしまう程に…。
これまでどんなトラブルに見舞われようとも、自分が足を取られる事など絶対に無い。という確固たる自信が揺らいでいたからだ。
それは、男が51歳にして初めて経験する焦りであった…。
数年前、長女が仲間をカネで雇って同級生の女生徒に凄惨な虐めを加えた。
だが被害者にもかなりの素行不良があったため被害者を強制退学させ、これにて幕引きとなる筈だった。
しかし被害者が長女の周辺を嗅ぎ回り始め、そのうち男の秘密にまで触れ始めた事もあり…男は長女の虐めに加担した仲間に戒めの意味も込めて被害者の始末を命じた。
だが、始末を遂行した直後に被害者は行方不明となり、続けて数日後に長女までもが行方不明となった。
どう探っても長女と被害者の行方は掴めず、これ以上探る事は男の立場を危うくする危険もあり、長女は海外留学したという事にしてひとまず放置した。
しかしつい先日、男が主催するクローズドイベントの運営を任せていた長女の仲間と連絡が付かなくなり、同時期に他の仲間たちも行方不明になっていた事も分かった。
男は長女の仲間たちに常々“出世”や“便宜”というニンジンを吊るして飼い慣らしており、不都合が起きれば連中に罪を被せる事も含めて汚れ仕事を命じていたのだが…。

(私の秘密を知っている人間が何人も行方不明になっているとは…絶対にあってはならない事だ…)

男にとって長女は失敗作だった。
ある時期を境に勝手な行動を取るようになり、それは男に心の底からの畏れを抱かなくなった証だった。

(探し出して殺らなくては…ヤツ(長女)を…)

男が若い時分に当時の第一人者に受けた教育によれば…
「コントロール出来ない人間」によって失脚し、歴史の表舞台に躍り出る事が出来なかった天才は履いて捨てる程おり、決して天才=成功者ではないという。
成功者とは何か…?
それは、大事を成し遂げる最中にトラブルに足を取られなかった者の事だという。そして、トラブルとは往々にして「コントロール出来ない人間」の無軌道な行動によってもたらされるものだ。
転ばない事…転げ落ちない事…妨害を受けない事がいかに重要であるか?
ただ優秀であるだけでは、大事は成し遂げられない。
成功者とは、結果的に転ばなかった者たちが顔を連ねているのだ…と。
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