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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
私が笑うと、両側の犬歯が口唇の端からちらっと覗く。
小さいころからずっとそうで、人に見られるのがいやだったから、あまり笑わないようにしていた。
でも、笑顔って自然と出ちゃうから、「見られたくない」という気持ちと混ざって、眉が下がった自信なさそうな泣き笑いの顔になっちゃうんだ。
私はこんな自分の歯がきらいで、大人になったら抜きたいって思ってたけど、お味幼稚園の賢人くんはいつも、「りおの歯、可愛い」って言ってくれた。
賢人くん、趣味悪いな。
でも、リスとかハムスターが好きって言ってたから、こういう歯も平気なのかな。
賢人くんは、コンプレックスだらけの私と違って、すごく整ったきれいな顔をしている。細い顎、少し目尻がつった大きな瞳、指どおりがよさそうなサラサラの茶髪。明るいし運動もできるから、小さいころからずっとモテてた。いつも教室のすみにいた私とは正反対。
なのに、一人でいる私と目が合うとこっちに寄ってきて、「りおもいっしょにやろう」って言ってくれたから、私はずっと、一人ぼっちになったことはなかった。
今はお互い大人になって、毎日いっしょにいることはもうなくなったけど、つらいときの私はいつも、心の中で賢人くんの顔を思い浮かべてしまう。
電話が、つながらない。
深夜二時。ベッドに横になってスマホを握りしめたまま、液晶画面に映る電話番号とにらめっこしている。
ついこの間までつながった電話番号は、何度賭けても、「お客様のおかけになった番号は……」と無機質なアナウンスを繰り返すだけだった。その冷たい機械の声を聴いていると、心臓が凍りつきそうになる。
「もしかして、だまされたのかな」
たどりつきたくなかった答えだけど、それ以外になさそうだった。
「ヴェリーロゼ 嘉村さん」と電話帳に登録した名前を見ているうちに、吐き気に似たものがこみあげてくる。
二か月前、ライブハウスで歌っていた私に名刺をくれた嘉村さんは、レコード会社「ヴェリーロゼ」の社員だと言った。何度もうちのバンドのライブを観に来てくれて、契約してメジャーデビューしないかと熱心に口説いてきた。
いかにもあやしげな話じゃないか、と人に話したら言われるかもしれない。
けれど、スカウトを経て表舞台へ行った人がまわりにも実在したから、私もつい信じてしまった。
小さいころからずっとそうで、人に見られるのがいやだったから、あまり笑わないようにしていた。
でも、笑顔って自然と出ちゃうから、「見られたくない」という気持ちと混ざって、眉が下がった自信なさそうな泣き笑いの顔になっちゃうんだ。
私はこんな自分の歯がきらいで、大人になったら抜きたいって思ってたけど、お味幼稚園の賢人くんはいつも、「りおの歯、可愛い」って言ってくれた。
賢人くん、趣味悪いな。
でも、リスとかハムスターが好きって言ってたから、こういう歯も平気なのかな。
賢人くんは、コンプレックスだらけの私と違って、すごく整ったきれいな顔をしている。細い顎、少し目尻がつった大きな瞳、指どおりがよさそうなサラサラの茶髪。明るいし運動もできるから、小さいころからずっとモテてた。いつも教室のすみにいた私とは正反対。
なのに、一人でいる私と目が合うとこっちに寄ってきて、「りおもいっしょにやろう」って言ってくれたから、私はずっと、一人ぼっちになったことはなかった。
今はお互い大人になって、毎日いっしょにいることはもうなくなったけど、つらいときの私はいつも、心の中で賢人くんの顔を思い浮かべてしまう。
電話が、つながらない。
深夜二時。ベッドに横になってスマホを握りしめたまま、液晶画面に映る電話番号とにらめっこしている。
ついこの間までつながった電話番号は、何度賭けても、「お客様のおかけになった番号は……」と無機質なアナウンスを繰り返すだけだった。その冷たい機械の声を聴いていると、心臓が凍りつきそうになる。
「もしかして、だまされたのかな」
たどりつきたくなかった答えだけど、それ以外になさそうだった。
「ヴェリーロゼ 嘉村さん」と電話帳に登録した名前を見ているうちに、吐き気に似たものがこみあげてくる。
二か月前、ライブハウスで歌っていた私に名刺をくれた嘉村さんは、レコード会社「ヴェリーロゼ」の社員だと言った。何度もうちのバンドのライブを観に来てくれて、契約してメジャーデビューしないかと熱心に口説いてきた。
いかにもあやしげな話じゃないか、と人に話したら言われるかもしれない。
けれど、スカウトを経て表舞台へ行った人がまわりにも実在したから、私もつい信じてしまった。