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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
「賢人くん、私ね」
 ずっと大好きだったよ。
 今も大好き。
「俺も」
 子どもでも言えるような単純な言葉で伝えあって、もう一度キスした。
 ずっと隣にいた人とやっとつながったんだな、と思ったら、安堵で久しぶりに眠くなった。
 
 
「おまえ、けっこう長いこと寝てなかったろ」
 とがめているというより、呆れているように、賢人くんが言う。食欲がなかったのもバレてたみたいで、あばら骨の辺りを指でなぞられた。
 賢人くんがコンビニで買ってきてくれた乳酸菌飲料を飲みながら、「だって」と私は口をとがらせた。
 悩み事があると身体の機能もおかしくなってしまうのは昔からだ。
 子どものときも、些細なことで思い詰めて体調を崩していたから、そのたびに賢人くんがプリントとか届けに来てくれたっけ。で、ついでに上がって「痛いの痛いの飛んでいけ」みたいなおまじないをしてくれた。どんな薬よりよく効いて、次の日にはちゃんと元気になれた。
 部屋を暗くして膝を抱えていたときも、賢人くんが来てくれたら気持ちごと明るくなった。太陽みたいって言ったら、にっと笑っていた。
「おまえさ、夢を叶えたいのは分かるけど、焦りすぎなんだよ」
 いっしょに狭いバスタブにつかりながら、賢人くんが言った。
「だって」
「また『だって』か」
 ふわ、と頬を両手で包まれる。
「悪い奴にだまされたらって、ずっと心配してたから。俺ももう遠慮すんのはやめる。いっしょに住もう」
「え、いいの?」
「うん。バイトも送っていくし」
 昔から過保護だった賢人くんは、私の頭も洗ってくれる。
「シャンプー得意だからな」
「ありがと。私はお礼に……『いつくしみ深き』歌おうか?」
「今はいいよ」
 顔を見合わせて笑う。
 お風呂につかって目を閉じたときに、ふっと記憶が蘇ってきた。
 嘉村といたあの夜は結局、私が酔ってトイレから出られなくて、本当に何もなかったこと。
「賢人くん、あのね」
「ん?」
「ごめん、やっぱ何でもない」
 賢人くんが初めてだったよ、と伝えようとして、私は思いとどまった。
 そんなことわざわざ言わなくたって、私がこんなに誰かを好きになるのは初めてだって、賢人くんは分かってるはずだから。 終
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