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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
今日の昼、思いきってヴェリーロゼに電話して「嘉村有紀」という社員がいるか確認したら、「在籍していない」とはっきり言われてしまった。この二か月の間に、先に確認すればよかったのに、疑っていると思われたくなくて、できなかった。
嘉村さんは他のメンバーにも名刺を渡していたけど、連絡してくるのはおもにリーダーの私あてだった。しょっちゅう、電話をかけてきて、バーや居酒屋に呼び出された。プラチナニコフの結成から今までの話を聴きたいと言われて出かけたのに、席についたらまったく関係ない話ばかりで終わることが多かった。
「そんな派手な金髪より、清楚な感じにしたほうがいいんじゃない。化粧も控えめにしてさ」
そんな発言を聞くたび、この人はなぜ私に声をかけたんだろうと疑問に感じた。
でも、渡された名刺の金の文字やメジャーデビューの夢を思い浮かべたら、何の言葉も出てこなかった。
そしてつい先日、私はホテルに呼び出された。
「ねぇ、分かってるよね」「君はもう二十三で、十代の子に比べたら可能性も少ないし」「にこにこしているだけでやっていけるほど可愛くもない」「あのバンドでメジャー行きたいんでしょ」
三十代半ばでシャープな印象の顔の嘉村さんは、杯を重ねてもちっとも酔わなかった。黒ぶち眼鏡の奥の冷たい目に、私はしだいに体温を奪われていくような感覚に陥った。
ほとんど覚えていないけれど、酔わされて、抱かれてしまったんだと思う。
デビューさせてあげるから、という言葉に負けて。
バンド活動が忙しかったから、恋人がいたこともなかった私は、処女だった。
でも、メジャーに行けるなら何を捨ててもいいと思っていた。
本当にそれで、夢が叶うのなら。
でも、実際はただ、よくあるバカな話みたいに、だまされて痛い目にあっただけで終わってしまった。
私一人が決めたことだから、メンバーにも話せない。
誰にも相談できないまま、つながらない電話番号を見つめているうちに時間が過ぎた。
ふいに、スマホが小さく揺れる。
嘉村さん?
着信かと思ったら、LINEのメッセージだった。
『りお、久しぶり。今日は仕事の後飲み会だったんだ。りおは元気にしてるかなと思って。またいっしょに飯食いに行こ』
賢人くん……。
『久しぶり。元気だよ』
私はすぐに返信してしまった。
嘉村さんは他のメンバーにも名刺を渡していたけど、連絡してくるのはおもにリーダーの私あてだった。しょっちゅう、電話をかけてきて、バーや居酒屋に呼び出された。プラチナニコフの結成から今までの話を聴きたいと言われて出かけたのに、席についたらまったく関係ない話ばかりで終わることが多かった。
「そんな派手な金髪より、清楚な感じにしたほうがいいんじゃない。化粧も控えめにしてさ」
そんな発言を聞くたび、この人はなぜ私に声をかけたんだろうと疑問に感じた。
でも、渡された名刺の金の文字やメジャーデビューの夢を思い浮かべたら、何の言葉も出てこなかった。
そしてつい先日、私はホテルに呼び出された。
「ねぇ、分かってるよね」「君はもう二十三で、十代の子に比べたら可能性も少ないし」「にこにこしているだけでやっていけるほど可愛くもない」「あのバンドでメジャー行きたいんでしょ」
三十代半ばでシャープな印象の顔の嘉村さんは、杯を重ねてもちっとも酔わなかった。黒ぶち眼鏡の奥の冷たい目に、私はしだいに体温を奪われていくような感覚に陥った。
ほとんど覚えていないけれど、酔わされて、抱かれてしまったんだと思う。
デビューさせてあげるから、という言葉に負けて。
バンド活動が忙しかったから、恋人がいたこともなかった私は、処女だった。
でも、メジャーに行けるなら何を捨ててもいいと思っていた。
本当にそれで、夢が叶うのなら。
でも、実際はただ、よくあるバカな話みたいに、だまされて痛い目にあっただけで終わってしまった。
私一人が決めたことだから、メンバーにも話せない。
誰にも相談できないまま、つながらない電話番号を見つめているうちに時間が過ぎた。
ふいに、スマホが小さく揺れる。
嘉村さん?
着信かと思ったら、LINEのメッセージだった。
『りお、久しぶり。今日は仕事の後飲み会だったんだ。りおは元気にしてるかなと思って。またいっしょに飯食いに行こ』
賢人くん……。
『久しぶり。元気だよ』
私はすぐに返信してしまった。