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レディー・マスケティアーズ
第3章 依頼 ――二か月後
 通された仕切りの奥には、客との面談用の小さなテーブルと擦り切れたパイプ椅子が二脚。警察の取調室のようなそこに、七十代に見える小柄な男が座っていた。
 禿げあがった頭、真夏というのに厚手のカーディガンを羽織っていた。女事務員と同じく、手書き文字で「所長 松永尚久」と書かれた名札を付けている。
「これは、これは、塚越様。お待ちしておりました」
 事務員の館山が、麦茶のコップを運んできて、姿を消すのを確かめてから、涼子はフーッと息を吐き、話し始めた。
「パパの言いつけ通りやったわよ」
 涼子が小さく笑う。
「じゃあ、トーホー開発の本社に?」
「ええ。種は撒いてきましたよ。社長の久保寺に挨拶することを表向きの理由に、専務の木庭に探りを入れてきた。運よく甥っ子の浩一と、企画部長の田野倉まで顔を出してくれたわ」
 トーホー開発専務の木庭茂。特命企画部長の田野倉。木庭の甥っ子であり、やはり特命企画部の主任に収まっている木庭浩一。
 松永が広げた角の擦り切れた大学ノートには、すでにその名前が記されている。松永は名前の横に、小さく今日の日付を書き留めた。
「それで守備は? いかがでした」
 立つと涼子より十センチは背の低そうな松永は、座っていても相手を見上げるような姿勢になる。
 両ひざをきちんと揃えているものだから、老婦人と向き合う様子は、どう見ても使用人か、母親に叱られている子どもにしか見えない。
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