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レディー・マスケティアーズ
第10章 ポルトス&ダルタニァン ――パークサイド・パレス
 男はドアミラーに顔を向け、「お待ちかね。おれだよ」と告げた。
「あらっ、坂上ちゃん。それに工藤ちゃんも。待っていたわよ」
 ドアチェーンを外すガチャリという音がして、ポルトスこと山岸彩也子が顔を覗かせた。
 
                 *

 三軒茶屋のマンションから成城の木庭茂の自宅まで、車を使えば三十分ほどの距離だったが、この雨には参ったものだ。
 木庭茂は、まず成城の屋敷に電話を入れ、運転手に自分のベンツを持ってこさせた。そこで運転手を帰し、駐車場に出入りする人間がいない頃合いを見計らって、浩一と二人、大きな衣装ケースを車に運び込んだ。
 衣装ケースの中には、手足を縛り、さるぐつわを咬ませたアラミス――星野奈緒美――がいる。睡眠薬をたらふく飲ませているから、しばらくは眠り込んでいるはずだが、大の男二人がかりでも、ベンツの後部座席にそれを積み込むのは骨の折れる仕事だった。
「よし、浩一。まずは、こいつを成城の屋敷に運べ。姉貴にも知らせてある。忙しいの何のと散々文句を言われたが、夜には帰ってくるはずだ。あとは、田野倉の連絡を待つのみだな」
 額の汗をぬぐって、木庭茂が言った。
「ああ。それにしても田野倉のやつ、いつになったら飛行機に乗るんだよ。まったく肝心な時に限って、役に立たないやつめ!」
 舌打ちしながら、浩一が腕時計に目をやると、針は十一時三十分を指していた。
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