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独占欲に捕らわれて
第4章 予想外
「そうね」
千聖もスマホを出し、ふたりは連絡先を交換した。
「さて、そろそろお開きにしよっか」
紅玲は伝票片手に、ゆったりと立ち上がる。
「あら、ホテルには行かないの?」
「んー? 今日は契約だけね。契約書にもそう書いたと思うけど」
紅玲は不思議そうな顔をする。

「ホント、見かけによらず誠実ね」
「ひっどいなぁ……。ま、そんなところも好きだけどね」
「はいはい。それじゃ、ご馳走様」
紅玲の口説き文句にうんざりした千聖は、ひとりで店から出た。

「はぁ……。若い人の相手とかあんまりしたくないんだけど、仕方ないわね……」
千聖はため息をつきながら紅玲の連絡先をパパリストに入れた。スマホをしまおうとした瞬間、母親から着信がはいる。
「連絡するの忘れてた……」
ぽつりと呟いてから、電話に出る。

「もしもし、お母……」
『千聖! なんで連絡くれないのよ!』
ヒステリックな声が、千聖の言葉を遮った。
「……私だって忙しいの。そんなに大声出さないでよ」
『お母さんがどれだけ心細い思いしたと思ってるの?』
(まったく、それが原因で私が出ていったって、全然分かってないんだから……)
千聖は内心舌打ちをしながら、理解を得るのを諦めた。

「悪かったわよ……。明日、そっちに行くから」
『お願いね、正樹もいなくなって大変なの』
母親の切羽詰まった声に、千聖は怒りを募らせる。
「……で、肝心の借金作ったバカはどこに行ったの?」
『そんな言い方ないでしょ! 兄妹なんだから……。どこに行ったのかは、私も知らなくて……。なにか知らない?』
母親の支離滅裂な発言に、千聖は頭を抱える。正樹と不仲な千聖は、彼の連絡先など、とうの昔にブロックして消去してある。そのことは伝えてはいないが、不仲なふたりが連絡を取り合うわけないことくらい、察して欲しかった。

「あー……とりあえず、明日そっちに行くから、借金取りが置いてった名刺とかあれば出しといて。それじゃ」
耐えきれなくなった千聖は、一方的に言うと電話を切った。
「はぁ……まったくもう!」
「大変そうだね」
「きゃあ!?」
驚いて振り向けば、心配そうな顔をした紅玲がいた。
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