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独占欲に捕らわれて
第4章 予想外
「……どこから聞いてたの?」
「あのバカはーってところから」
「……そう」
いたたまれなくなった千聖は、視線を落とす。

「飲みに行こっか。……オレは呑めないけど」
紅玲はそう言って千聖の手を引く。
「ちょっと……!」
戸惑った千聖が声を出すと、紅玲は振り返ってニコリと笑う。
「大丈夫、オレの奢りだから」
「そういう問題じゃないんだけど……」
困惑しながらも、千聖は大人しくついて行く。呑みたいと思っていたのが事実ということもあるが、今はひとりでいたくなかった。

紅玲が千聖を連れて来たのは居酒屋。中に入ればほかの客達で賑わっている。赤いバンダナを巻いた若い男性店員が、ふたりを4人掛けの席に案内してくれる。
「てっきり高い店に連れてかれると思った」
席に座ると、千聖は率直の感想を言う。
「あっはは、オレだって、高い店にしか行かないわけじゃないからね。それに、イラついてる時は静かなバーより、こっちの方がいいと思って」
紅玲はメニュー表を差し出しながら言う。

「好きなのどうぞ」
「ありがと」
千聖はメニュー表を受け取ると、ざっと目を通してから通りかかった店員に声をかけた。
「すいません」
「はい、ご注文ですか?」
店員は伝票を構えながら聞く。

「ハイボールと軟骨の唐揚げ。あなたは?」
「オレはウーロン茶だけでいいよ」
「ハイボールとウーロン茶の軟骨唐揚げですね、少々お待ちください」
店員は注文を繰り返すと、厨房へ消えた。

「ねー、チサちゃん。お願いがあるんだけど」
紅玲は不満げな顔をしながら言う。
「なにかしら?」
「できれば名前で呼んでくれない? 名前まったく呼ばれないの、なんか寂しい……」
「……まぁ……いいけど……」
千聖が渋々了承の返事をすると、紅玲は嬉しそうに口角を上げた。

「お待たせしました、ハイボールとウーロン茶です」
店員が飲み物を運んでくると、千聖はすぐに飲み干し、店員にぐいっと押し付けるようにグラスを渡した。
「ハイボールおかわり」
「は、はい。お客さん、酒豪っすね」
店員はグラスを受け取ると、再び厨房へ消えた。
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