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独占欲に捕らわれて
第5章 返済
「……ご名答よ。うちは母子家庭で家庭が大変だったの。お母さんはそれを言い訳にしてやりたいことはやらせてくれなかったし、逆にやりたくないことはやらされてた。それに家事の手伝いだって、兄にはなんにも言わないくせに、私には女だからって理由で強要した……。他にも色々あったけど、要約すれば私だけが理不尽な目にあって、あのふたりはわりと自由だったのよ」
「いわゆる毒親って奴だね。辛い気持ちはよく分かるよ、オレもそうだったし」
「え?」
驚いて紅玲の顔を見るが、彼は薄ら笑みを浮かべるばかりだ。

「さ、イライラには美味しいものが1番。好きなの頼んで。チサちゃんが食べてる間に借金返してきちゃうから」
紅玲はゆったりと立ち上がると、小さなアタッシェケースを見せながら言う。
「ありがとう、お気をつけて」
「うん、行ってきます」
千聖はその場で紅玲を見送ると、メニュー表を開いた。

「うーん、特にこれといって食べたいものは……」
パラパラとメニュー表をめくるが、なかなか決められない。空腹を覚えていることは確かなのだが、イラついているせいでなかなか決められない。
「どうせアイツのおごりだし、景気よくいこう」
千聖はベルで店員を呼ぶと、ステーキとドリンクバーを注文した。

ドリンクバーからアイスティーをとってくると、席に戻ってひと口飲む。
「それにしても、私はなんであんな話をしたんだろう……?」
先程紅玲にした身内話を思い返しながら、ストローを回して氷をカラコロと鳴らす。
「……アイツも、毒親持ちだって言ってたけど、なんだかはぐらかされたというか、誤魔化されたというか……」
そこまで言って、千聖はハッとする。

「あんな奴、どうでもいいじゃない……。1ヶ月我慢したらおさらばなんだから」
千聖は一気に半分近くのアイスティーを飲み干した。
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