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独占欲に捕らわれて
第5章 返済
「おまたせ」
千聖が声をかけながら向かいの席に座ると、紅玲は小さく肩を揺らした。
「おかえり、チサちゃん。ちょっと待っててね」
紅玲をノートパソコンの電源を落とすと、アタッシェケースにしまった。

「名刺と契約書のコピーよ」
千聖は紅玲の前にクリアファイルを置く。紅玲は名刺と借用書のコピーを並べる。
「うん、しっかりと住所が書かれてるね。にしても、本当に雑だね」
「雑?」
苦笑いをしながら言う紅玲を、千聖はまじまじと見つめる。

「そう、雑。裁判に持ち込めば、これ払わなくて済むと思う」
「どういうこと?」
「ここ見て」
紅玲は借用書のコピーを千聖の前に滑らせると、借用額を指さした。1,000,000という手書きの数字が書かれている。

「後ろのこの2つの0と、前の0を見比べてみて。これ、筆跡鑑定したらあとから書き足したって分かるはずだよ」
意識して0を見比べてみると、紅玲の言う通り筆跡が違う。正樹が書いた0は、丸っぽい上につなぎ目が跳ね上がったり×になったりしている。後ろ2つの0は縦長で、つなぎ目は下にある。
「確かに……! バカ兄貴は上から書き始めてるけど、こっちのは下から書き始めてる……。これを証拠に裁判をすれば……」
「おすすめはしないけどね……」
紅玲は冷めた目で借用書を見ながら言う。

「私をセフレにできないから。……では、なさそうね」
「まぁそれもあるけどね。裁判だと時間と労力がかかるからさ。なによりチサちゃんに負担が行きそうだし。これもらってくるのにも、ケンカしてきたんじゃないの?」
紅玲に言い当てられ、千聖は目を見開く。

「私に盗聴器でも仕掛けてた?」
「まさか。ここに来る時、顔が強ばってたからね。相談持ちかけてきた時から、きっとおにーさんとだけじゃなくて、おかーさんとも仲良くないんじゃないかって思ってたし」
紅玲はそう言って煙草に火をつけた。
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