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独占欲に捕らわれて
第7章 苦悩
(仕方ないわね……)
千聖は内心呆れ返りながらも笑顔を作ると、男の前にメニュー表を広げた。
「これの一気飲みで、お兄さんが勝てたらね」
そう言いながら千聖が指さしたのは、テキーラ。写真では、小さなグラスに入っている。

「それくらい余裕余裕」
「そう、それならよかった」
ヘラヘラ笑う男に笑いかけると、千聖は店員を呼び止めた。
「ねぇ、テキーラをふたつ頂ける? こんな小さなグラスじゃなくて、ジョッキで」
千聖の注文に、男も店員もポカンと口を開ける。

「もちろん、この値段で出せなんて横暴なこと言わないわ。言い値で払わせてもらうつもりよ」
「お、お姉さん、冗談でしょ?」
男は引きつった笑顔で聞く。
「冗談じゃないわ。あなただって、これくらい余裕って言ってたじゃない?」
千聖はメニュー表の写真を指さしながら言う。

「あの……本当にテキーラを、ジョッキで……?」
店員は恐る恐る千聖に聞く。
「えぇ、彼と飲み比べをしようと思って。ね?」
「あ、いや……は、はははっ……やっぱひとりで呑むわ……」
男は逃げるようにカウンター席へ戻っていった。

「つまんない男ね」
千聖は目で男を追いかけ、鼻で笑った。
「あの……、注文は……」
「あぁ、ごめんなさいね。ハイボールのおかわり頼める?」
千聖はグラスを空にして店員に差し出し、にっこり微笑む。店員はグラスを受け取り、厨房へ消えた。

(まったく、どうしてこんなに気になるのよ……)
おかわりのハイボールを待ちながら、ふたり組の女性達の会話を脳内で何度も繰り返し、ぶつかった女性の顔も思い出す。
「そもそも、あれが本当に紅玲だったとして、私になんの関係があるっていうのよ?」
自分に言い聞かせるように言うと、運ばれてきたハイボールを勢いよく呑む。

毛嫌いしていた紅玲をある程度は理解して普通に接しようと心がけていた千聖だが、斗真に言われてそうしているというのが大きい。毛嫌いはしなくなったとはいえ、紅玲が苦手なのは今も同じだ。第一千聖は、契約期間を終えたら彼と会うつもりはない。
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