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独占欲に捕らわれて
第7章 苦悩
「何してるのよ……」
胸騒ぎを覚えた千聖は、浴室のドアをそっと開けて中を覗いた。ひんやりとした空気が、足元に流れる。紅玲は椅子に座り、シャワーを浴びている。彼が冷水を浴びていると悟った千聖は、血相を変えて浴室に入る。
「なにしてんのよ、バカ!」
シャワーを止めると、紅玲の腕を引く。

「言ったでしょ? 頭を冷やしてくるって」
紅玲は抑揚のない声で返す。
「もう、本当にバカじゃないの……。こんなに冷えて……」
千聖は服が濡れるのもお構い無しに、紅玲を後ろから抱きしめる。
「あったかいシャワー、浴びなさいよ……」
シャワーの温度調節をするために紅玲を離そうとすると、紅玲はその腕を力強く握った。

「チサちゃん、お願いだからベッド行こう……」
紅玲は消え入りそうな声で懇願する。
「……分かったわ」
「じゃあ、先にベッド行ってて。顔、見られたくないんだ。きっと今、酷い顔してるだろうから……」
「分かった。待ってるから、すぐに来てね」
千聖がそう言うと、ようやく腕が離される。

千聖は1足先にベッドに行くと、服を全て脱ぎ、浴室に背中を向けて座った。
(なんだか混乱してきた……。お父様との凄惨な過去は平気で話すのに、どうしてミチルのこととなると、泣きそうな顔をするの?)
今まで聞いたミチルの情報を全て思い出し、1つの答えにたどり着く。
「紅玲は、まだミチルを愛している……?」
小声で呟いた瞬間、例えようのない虚無感に襲われる。胸が締め付けられ、今にも叫びだしたくなる衝動にかられた。

(どうしてこんなに苦しいの? これじゃあ、まるで……)
ベッドが軋み、千聖の思考回路が止まる。後ろから冷たい躯で抱きしめられる。身震いしてしまうほどひんやりする紅玲に触れられ、胸が締め付けられるような苦しさが、和らいでいく。
「ごめんね、冷たいままで……。顔見ないように、背中向けてくれてたんだね。ありがと、チサちゃんは優しいね」
聞いたことのない、低めのかすれ声に、再び胸が締め付けられる。
(そんな辛そうな声、聞きたくない……)
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