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独占欲に捕らわれて
第7章 苦悩
「その台本にはなんて?」
「大学入学を機にひとり暮らしさせてください。父さんといると甘えが生じてしまう気がするので、社会人になる前に修行をしたく思います、ってさ。こんなんですんなり行くんだから驚いたよ。その後決別の儀式ってことで、今みたいになったわけ」
「まさかその服装やピアスに、そんな経緯があっただなんて……」
千聖はまじまじと紅玲の髪やピアスを見ながら言った。

「あっはは、だいぶ話がそれちゃったね。それで、父さんの頼みなんだけど、手切れ金に100万円渡して帰らせたんだ。それっぽっちじゃ足りないっていうのは知ってるけど、父さんの会社を救う義理なんてないからね。プライドへし折って頭下げに来て、それであんな額渡されちゃ、さぞかし困るだろうなぁ」
楽しそうに言う紅玲に、千聖は安堵した。

「やる時はやるのね。いくら必要って言われたのか、聞いてもいい?」
「2千万、必要だったんだって。あてが外れて、これからどうなることやら……」
企むような笑みは、いつもの紅玲だ。

「近々会社の倒産ニュースがやったら、あなたのお父様と思っておくわ。それで、ミチルって人はなんて?」
ミチルの名前が出た途端、紅玲は俯いて黙り込む。
(あぁ、もう! 私ったら何してんのよ!)
再び落ち込んでしまった紅玲に、千聖は自責の念にかられる。

「ミチル、ミチルねぇ……。んー、その前に、頭冷やしてくるね」
紅玲は立ち上がるが、ふらりとふらつく。
「ちょっと、大丈夫なの?」
千聖は紅玲の腕を掴み、顔をのぞき込む。紅玲は今にも泣きそうな顔をしている。
「大丈夫大丈夫、チサちゃんと喋ってたら、それなりに酔いも覚めてきたし」
紅玲はやんわりと千聖の手を退かすと、浴室へ行った。

「本当に大丈夫なのかしら……?」
千聖は不安に揺れる瞳を、浴室に向けた。間もなくシャワーの音が聞こえ、千聖は静かに耳を傾けながら、紅玲が出てくるのを待つことにした。
5分もすると、千聖は異変に気づく。シャワーの音に、まったく変化がないのだ。普通なら髪や躯にかける時に音の変化が生じる。シャワーヘッドを固定したままにしても、紅玲が動く音が聞こえるはずだ。
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