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官能小説家のリアル
第8章 変化
「今日は、力仕事は全部直哉に頼んでいいからね」
美波の言葉に、直哉は苦笑い。
普段は“甘えん坊”という感じの美波とは違う。でも、直哉はそれも嬉しかった。
また、知らなかった美波の一面。
「並んでるけど? お客さん?」
「しょうがないんです。開場にならないと、売っちゃいけないから」
由香里に言われ、直哉は頼まれた作業に戻る。由香里はそのまま、“最後尾”というプラカードを持って列の後ろへ渡してくる。
仕組みは分からないが、伸びていく列に直哉は驚いていた。
こんなに多くの人達が、美波の書いたものを読みたがっている。今まで実感が無かった直哉は、感動も覚える。
「ありがとう。直哉は、後ろで座ってて? もうすぐ会場だから」
「分かった……」
直哉には、いつも以上に美波が輝いて見えた。
開場になり、直哉は一緒に拍手をする。見ると、目の前は戦場のよう。並んでいた客への頒布が始まり、山だった本が次々と減っていく。
「直哉。あの山が無くなりそうになったら、下の箱から出して上に積んでくれる?」
「分かった」
前に行ってみると、少ないが列には男性の姿もあった。
「直哉さん。お願いします」
桃恵に言われ、直哉は慌てて本を載せる。
美波は横に立ち、次々とやってくるスーツ姿の女性達と話をしていた。
そんな中飯野の姿を見て、本を多めに積んだ直哉が美波の傍へ行く。
「あっ。相良さんもいらっしゃったんですね。お手伝いですか?」
「はい。初めてで、何にも分かんなくて……」
話ながら、直哉は飯野が普通でホッとしていた。
バーラウンジで話を聞いてから二ヶ月近く。直哉は、勿論飯野と会う機会が無い。
「では。失礼します」
飯野のお辞儀に応え、直哉も頭を下げた。
「なんか、下にいっぱいあるけど?」
美波の足下の空いた段ボール箱には、ラッピングされたものが沢山入っている。
「色々な雑誌の担当さん達とか、ファンからの差し入れ。後ろで食べてていいよ?」
その言葉に甘え、直哉は空き箱と入れ替え箱ごと後ろへ運んだ。