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官能小説家のリアル
第1章 新しい仕事

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イベント当日。日数的に余裕のある仕事だけを残し、美波は会場へやって来た。
真夏の場内は、うだるような暑さ。
美波達の後ろに大きなシャッターはあるが、開場前は閉じたまま。
いつも手伝いに来てくれる華(はな)と梨央(りお)と由香里(ゆかり)が、桃恵と一緒に同人誌を並べてくれている。美波は会計用の釣銭の用意をしていた。
建物の外には、数時間待ちになる列が明け方から出来ている。紙媒体が廃(すた)れていると言っても、ここへ来ないと手に入らない同人誌は貴重。開場前なのに、美波の頒布スペースの前には既に長い列が出来ている。
自分の所の出店準備を終えた“みなみ”のファン達。中には転売目的の者もいるが、それも仕方がないこと。
美波が用意した新刊は千冊。これでも、以前よりは少なく刷っている。
それと、桃恵のものが50冊。素人のわりに多めなのは、後で友人や知人にあげるため。
手伝いの華は便箋(びんせん)を作っていて、それも少し置いてある。それこそ以前は便箋だけでもスペースを持てたが、今は手紙自体書かない時代。殆ど売れないと言ってもいいくらいだった。
開場時間になると、場内に拍手が巻き起こる。そんな中、美波のスペースは拍手する暇も無く頒布を始める。
二列で対応しているが、客は途切れない。
早めに来た美波がサインを入れられたのは、何とか200冊。“それ以上サインは出来ない”という旨の紙を貼り頒布している。
華と梨央が客に対応し、由香里が釣銭係。桃恵は後ろで片付けをしている。500円という設定にしたため、客も心得ていて500円玉を出す者が多い。美波は“桃”の本と華の便箋係。買う客は少なく、ファンへの対応の方が多かった。

