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官能小説家のリアル
第2章 悩み
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
直哉の盆休みも開け、美波も仕事に戻る。
校閲の入った原稿を見ながら、パソコンの文章を直していく。
いくら長くやっていても、誤字脱字はある。でもそれ以外で意に添わないと思えば、直さずにそのまま。
校閲や担当が指摘するよう全て直していたら、自分の文章ではなくなってしまう。美波にはそんなプライドもある。
そう言った作家は多く、担当もそれを理解していた。
一休みついでに、届いていたイベント会場からの荷物を開ける。
会場には宅配業者が入っていて、手荷物や現金以外はこうして全て送ってしまう。
美波の本は完売で、その後も来る客がちらほらといた。次のイベントからの不参加は、打ち上げで桃恵に告げてある。
ファンに直接会えないのは淋しいとも思うが、本業に打ち込みたい。桃恵もそれを分かってくれている。
片付けていて、飯野の名刺に気付く。
帰ったら直哉に同棲の話をされ、連泊。楽しくて、すっかり忘れていた。
きちんと断らなければいけない。
この業界も、あやふやなことは嫌われる。
早い方がいいと思い、名刺を持つと奥の部屋でベッドへ腰かけた。
受付から繋いでもらい、飯野が出る。
『みなみ先生。ご連絡ありがとうございます。出来ましたら、半年後の号にお願いしたいんですが』
「ちょっと待ってください。今日は、きちんとお断りしようと思いまして……」
美波の気持ちは決まっていた。
自分のセックスを、切り売りするようなことはしたくない。男女で過激な内容を書けば、こんな風にされたい願望があると誤解されるのも恥ずかしかった。
『待ってください。一度、きちんとお会い出来ませんか?』
「でも……」
『お願いします。話を聞いてください』
イベントでの時のように、飯野が食い下がる。
『みなみ先生がお忙しいのは、重々承知です。ですが一度でいいのでチャンスをください』
「……でしたら、一度、お話しはお聞きします。でも、気持ちは変わりませんから」
飯野に溜息が聞こえても、美波は気にしなかった。