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官能小説家のリアル
第2章  悩み


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 直哉の盆休みも開け、美波も仕事に戻る。
 校閲の入った原稿を見ながら、パソコンの文章を直していく。
 いくら長くやっていても、誤字脱字はある。でもそれ以外で意に添わないと思えば、直さずにそのまま。
 校閲や担当が指摘するよう全て直していたら、自分の文章ではなくなってしまう。美波にはそんなプライドもある。
 そう言った作家は多く、担当もそれを理解していた。
 一休みついでに、届いていたイベント会場からの荷物を開ける。
 会場には宅配業者が入っていて、手荷物や現金以外はこうして全て送ってしまう。
 美波の本は完売で、その後も来る客がちらほらといた。次のイベントからの不参加は、打ち上げで桃恵に告げてある。
 ファンに直接会えないのは淋しいとも思うが、本業に打ち込みたい。桃恵もそれを分かってくれている。
 片付けていて、飯野の名刺に気付く。
 帰ったら直哉に同棲の話をされ、連泊。楽しくて、すっかり忘れていた。
 きちんと断らなければいけない。
 この業界も、あやふやなことは嫌われる。
 早い方がいいと思い、名刺を持つと奥の部屋でベッドへ腰かけた。
 受付から繋いでもらい、飯野が出る。
『みなみ先生。ご連絡ありがとうございます。出来ましたら、半年後の号にお願いしたいんですが』
「ちょっと待ってください。今日は、きちんとお断りしようと思いまして……」
 美波の気持ちは決まっていた。
 自分のセックスを、切り売りするようなことはしたくない。男女で過激な内容を書けば、こんな風にされたい願望があると誤解されるのも恥ずかしかった。
『待ってください。一度、きちんとお会い出来ませんか?』
「でも……」
『お願いします。話を聞いてください』
 イベントでの時のように、飯野が食い下がる。
『みなみ先生がお忙しいのは、重々承知です。ですが一度でいいのでチャンスをください』
「……でしたら、一度、お話しはお聞きします。でも、気持ちは変わりませんから」
 飯野に溜息が聞こえても、美波は気にしなかった。


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