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官能小説家のリアル
第2章 悩み
『ありがとうございます! 明日、お時間を取って頂けますでしょうか?』
「明日ですか……。はい。何とか……」
『勿論、お近くまでお伺いします』
そう言われ、美波はいつも編集者と打ち合わせに使うファミレスを指定した。
時間を決め、通話を切る。
同じ業界といっても、少し畑が違う。無視しても良かったのかもしれない。美波は後悔した。
気分転換に紅茶を飲んでから、片付けを再開した。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「あっ。美波ー! 聞こえなかったか……」
会社帰りに美波のマンションへ寄ろうとした直哉は、大通りで彼女を見つけた。
でも声は届かなかったらしく、タクシーに乗ってしまう。
こんな時間にどこへ行くのかと思うと、気になって仕方ない。
直哉もタクシーを止めると、すぐ乗り込んだ。
「前の、黄色いタクシーをつけてください」
返事をした運転手が、すぐに美波の乗ったタクシーに追いつく。
仕事の打ち合わせの時、美波はいつもパソコンを持って行く。それは休みでマンションへ遊びに行った時、直哉も何度か見ている。「打ち合わせにパソコン使うの?」と訊き、会話の内容を誤魔化すためだと聞いたから、よく覚えていた。
でもさっきの美波は、小さなバッグだけ。
十分程で、美波の乗ったタクシーが停まる。そのすぐ後ろに自分の乗ったタクシーも停まり、直哉は身を屈めた。
「女性の方が、降りましたよ?」
「ちょっと待って。建物に入ってから」
運転手に言われても、直哉はそのままの体勢で美波を見ている。
美波が入った雑居ビルは、打ち合わせによく使うファミレスもあった。それも彼女から聞いて、直哉も知っている。
「お客さん。探偵さんですか?」
「まあ、そんなもんかな……」
直哉は運転手の問いに曖昧に答え、一応領収証をもらってタクシーを降りた。
雑居ビルに入りファミレスを覘くと、美波は奥の席にいる。もうドリンクバーを使ったらしく、テーブルにはグラスがあった。直哉はそれを確認してから中へ入り、入口近くの席に座る。