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官能小説家のリアル
第2章 悩み
「あの……。失礼になりますけど、今雑誌を創刊しても、売れ行きはそう見込めないのでは。休刊が増えてますし。これからは、ネットが主流かと……」
「ネットと、連動させます。番外編などは、無料でネット公開。小説の挿絵や設定資料も。それで本編に興味をもってもらえるように。ネットと同時進行のような形で進めていきます」
美波は、それが上手く行けば面白いとは思う。でも今は、紙媒体離れが進んでいる。読者がこちらの思惑通りになるか、不安もあった。
「でも、ジャンルが……。私には無理かと……」
「何人か、他ジャンルの先生方からOKをもらっています。BLの方からも」
それを言葉にしたかぁ、と思いながら、美波は紅茶を飲んだ。
隣の席からも、“BL”という言葉が聞こえてくる。
最近一般にも、呼び名と内容だけは有名になっているのは美波も知っていた。
「あの……。編集長は、私をご存知なんでしょうか」
「すみません。遅れまして。僕が、編集長です」
「えっ?」
飯野は、30代にしか見えない。美波は、編集長となると普通はもっと年上だと思っていた。
今もらった名刺を見ると、確かに“編集長”とかいてある。
「先生なら、T出版はご存じですよね。そこの新企画です。ですから、母体はTです。安心してください」
「はい……」
T出版は大手で、美波も知っていた。それどころか、系列のBL雑誌にも担当がいる。
「お願いします。先生のお力を貸してください。あっ、原稿料は、ページ当たりこれで」
そう言うと、飯野が紙ナフキンに数字を書く。
「えー? いきなり、こんなに……? だって、そのジャンルでは、新人ですよ? もしやるとしたら、PNも変えますし」
ジャンルは別としても、PNを変えれば無名の新人。
提示された金額は、美波がもらっている中でも高い方。
「いいえ。先生なら、これくらいに値します。もっとと言いたいんですが、上の都合もあるので……」
上というのは、母体になるT出版社。それだけは飯野にもどうしようもない。