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官能小説家のリアル
第3章  決心


 でも、今日は一人。顔を出したからもう帰ろうかと考えていると、若い女性が近付いて来る。
「あの、こんばんは……」
 女性が頭を下げる。
 出版社の人間かとも思ったが、美波は少し雰囲気が違うと感じた。
「こんばんは……」
 見覚えは無く、美波は取り敢えず挨拶を返す。
「みなみ先生、ですか? 今、飯野さんが言ってるのが聞こえたので……」
「はい。でも、こちらでは、PNを変える予定です。まだ決めてませんけど」
 女性ということで、美波は安心して笑顔になる。
「そうですか。小説、いつも拝読させて頂いてます。あっ、私……」
 女性がバッグから名刺を出す。
「桐島桜子(きりしまさくらこ)と申します。売れないBL漫画家です。こちらでは、挿絵を書かせて頂く予定です」
 名前を聞いても、美波は覚えが無い。
 美波も名刺を渡し、何となく微笑み合った。
 殆どが男性の中で、若い女性に会えてお互いにホッとしているのもある。
 桜子は26歳。その若さに似合う、薄いピンクのワンピース姿。
「みなみ先生は、BLで有名なのに。こちらでお書きになるんですか?」
「あっ。色々とあって……。そんなに、敬語を使わなくても」
「つい……。有名な方にお会い出来て、感動しちゃって」
 桜子が舌を出す。
 そんな様子が可愛いと思い、美波は笑ってしまった。
「あっ。みなみ先生と桐島先生。お知り合いなんですか?」
 通りすがった飯野が声をかける。
「今、知り合ったんです。元々ファンだし。飯野さんに感謝です」
 桜子が嬉しそうに言う。
「そうですか。では、お二人でお食事でもどうぞ」
 飯野は笑顔で頭を下げて行く。
「みなみ先生、せっかくだから食べませんか?」
「そうですね」
 二人で、立食形式の料理を取りに行く。
 そこも男性ばかりだったが、女性も二人になると強い。
「あれ、美味しそう」
 桜子が、ローストビーフを指差す。
 サラダを取ってから、一緒にローストビーフの皿へ行く。
「みなみ先生、何枚取ります?」
 自分の皿に五枚も載せた桜子が訊く。
「二枚で……」


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