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官能小説家のリアル
第4章  戸惑い


 恋人の直哉だと、逆に訊くのが恥ずかしい。
「そうですね。人によるとは思いますが、僕は騎乗位ですかね」
 飯野も真面目に答える。
「女性の全てが見えて。体も表情も。それで悦がられると、興奮は増します」
 美波は、飯野のセックスを覗き見ているような気分になる。
 飯野の上に乗る女性なら、大胆でセクシーで。美波は、そんなことを考えてしまった。
 質問を待つ飯野は無言。美波はいたたまれなくなってしまう。
 仕事に必要とはいえ、大胆なことを訊いてしまった。それも、飯野の個人的な好み。
 BLでも騎乗位はよく登場するが、挿れる場所からして綺麗な体勢にはならないだろうと思う。それでも美波達作家や読者は、それを美しく書いて済ませてきた。
 リアル。男女のリアルとなれば、色々と問題もあるだろう。
 女性は、現実には妊娠する。BLならいくら中出ししてもその心配はいらない。
「ここの、鏡を使うというのは、いいと思います。相手の男性からは見えづらいですが、読者には見えますから」
 それは直哉がやったことだと思うと、美波の顔が紅くなる。
「失礼ですが。みなみ先生、今、恋人は?」
「その……。いいえ……」
 恋人がいるのを隠したかったわけではない。美波は、「いる」と言えば直哉とのセックスを書いていると思われるのが恥ずかしかった。
「そうですか。では、僕はいかがでしょうか?」
「は?」
 いかがでしょうかと言われても、美波は困ってしまう。デリバリーの、その日のオススメ品でもあるまいし。
「僕は、みなみ先生のタイプではありませんか?」
「いいえ!」
 美波は、そこだけ正直に答えてしまった。
「でしたら、是非。僕とお付き合いして頂けませんか? 私生活も、仕事のフォローもさせて頂きます」
 仕事のフォローは、美波も嬉しい。でも私生活には、セックスについてもという意味も含まれているだろう。
 美波には直哉がいる。一緒に暮らすのは迷っているが、それは生活リズムのせい。好きなことに変わりはなかった。


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