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官能小説家のリアル
第4章  戸惑い


 でも相手にここまで言わせておいて、今更「恋人がいます」とは言いづらくなってしまう。
「考えさせて、ください……」
 美波はそう答えるのがやっとのまま、打ち合わせを終えた。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 ここも心理描写が足りない。
 BLとの違いを考えながら、美波は二稿目をやっていた。
 校閲が入る前に二稿をやるのは、どれくらい振りだろうと考える。
 初稿が上がって推敲してから担当へ添付ファイルとして送るが、二稿目は校閲が入った後。美波のレベルだと、多くても三稿目で済む。
「あー。あとがきが残ってたー。サインは明日やろう……」
 一人で声を上げると、美波はパソコンの画面を変えてBL用のあとがきを書き始めた。
 集中も必要だが、慣れない男性向けに没頭するのはつらい。美波は年末へ向けての雑誌用二つ。新書一冊。を同時進行していた。
 既に発売が迫ったもう一冊の新書は、見本が届いている。そのうち十冊にサインを入れ、編集部へ送り返す。それは読者プレゼント用。
 ネット小説は印刷がいらないから、年末進行はほぼ無いに近い。
 メールの音がして、急いでその画面を開く。
 仕事関係のメールなら、すぐ確認した方がいい。
「挿絵……」
 メールは飯野からで、挿絵の候補が添付されている。
 選ぶのは作家。絵師(えし・挿絵家)の用意した絵柄を見て、自分の作品に会うと思うものを選ぶ。普通絵師の名前は無いが、今回は書いてあった。
「あっ。桐島さんの絵、いいかも……」
 ③と書かれた候補にあったのは、パーティーで一緒だった桐島桜子のイラスト。
 線が繊細なのは、BL漫画を描いているせい。
 作品によってはベタ絵チックな挿絵もいいが、今回は少しシリアス。それを考え、美波は桜子を指名する旨を返信しておいた。
 あれから、飯野は何も言ってこない。今のメールも、仕事としての定型文。
 本当に告白されたのか、美波も疑い出していた。
 丁寧な口調と真面目そうな面持ちとは裏腹に、案外遊び人なのかもしれない。
 隙がありそうなら、誰にでも声をかけておく。美波はそんな風にも考えてしまった。


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