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官能小説家のリアル
第4章 戸惑い
今度はスマホが鳴り、飯野から。
『お世話になっております。月刊Mの飯野です。お忙しいところすみません。今回のイラストに名前があったのは、こちらのミスで……。申し訳ありません。本当に三番の方でよろしいですか?』
少し声が響いているのを感じ、美波は編集部からではないと感じた。
「はい。あの絵が合うと思ったので。名前は関係ありません」
それは本当のこと。
桜子とはメールの遣り取りをしているが、だからといって美波は贔屓(ひいき)をしない。
読者は、挿絵も含めて小説を評価してしまうもの。
それに桜子を選ばなかったからとしても、それは彼女には分からない。
小説家と絵師では、小説家の方が上位の扱いになる。
とは言え、漫画などで有名な人に挿絵をつけてもらえれば一番いい。挿絵の分、小説の評価も上がる。
美波も男性向け小説の挿絵として人気がある人をネットで調べたが、残念ながら好みではなかった。それに、今回の作品には合わない。
そんなことも考えながら、作家は絵師を決める。
『それと、お話しした件なんですが。いかがでしょうか?』
「はい?」
美波は他に決めることがあったか考えた。
『お付き合いの件です。考えたいと仰られたので』
「まだ、考え中です……」
咄嗟にそう言ったが、何か理由を付けて断る手もある。そう思ったが、もう遅いと美波は溜息を隠した。
声が響いて聞こえるのは、飯野が廊下へ出ているせい。さすがにそんな話は編集部内では出来ない。
『そうですか。では、三番の方に初稿を渡して挿絵を依頼しておきますので。それでは、失礼します』
「失礼します……」
通話を切り、美波は大きな溜息をつく。
どうしよう。
いくら作家でも、そんな在り来たりな言葉しか思い浮かばなかった。
このことがもし直哉に知られたら、編集部に乗り込むかもしれない。
夜に出かける所を見たからタクシーで追いかけたと、美波も後から聞いて知った。そんな直哉なら、やりかねない。
何とかしなくてはと思ってはいるが、美波は仕事に取りかかるしかなかった。