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官能小説家のリアル
第4章  戸惑い


 数え切れない灯りの中、どれくらいの幸せが存在するのだろう。
 自分が帰るのは、灯りも点いていないマンション。
 恋人がいるというだけで、羨ましがられることもあった。でもそれはそれで、また別の悩みが出来るもの。
 人間は欲張りで、一つ手に入れるともっと欲しくなってしまう。
 顔を見られるだけでいい。抱き合うだけでいい。そう思っても、また次へと手を伸ばしてしまう。
 彼女を、自分だけのものにしたい。
 今でも充分、そう言える。でも直哉は、もっとしっかりとした絆が欲しかった。
 “ずっと、一緒にいたい”。
 美波へ告げたのは、直哉の本当の思い。
 その言葉を別のものに換えられなかったのは、彼の自信の無さ。
 以前に言った、“一緒に暮らしたい”。それと同じ。
 今度は、どんな言葉で自分を誤魔化すのかと考えてしまう。
 素直に“結婚して欲しい”と言えないのは、彼女に仕事があるから。
 自分よりも高収入の美波に、“オレが守る”という言葉は意味があるのか。
 結婚してからも、仕事を続けても構わないとは思っている。でもそれが、いつか歪(ひずみ)を生みそうで。
 美波が贅沢な暮らしを求めていないのも分かっている。自分を好きでいてくれることも。そして、彼女が今の仕事が好きなことも。
 だからこそ、一番言いたい言葉を口に出来ない。
 もう一度溜息をついてから、直哉は流れていく灯りを見ていた。


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