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官能小説家のリアル
第4章  戸惑い


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「本当ですか!? ありがとうございます! はいっ! 頑張ります!」
 何度も礼を言ってから、桜子は通話を切った。
 憧れの人の挿絵が描ける。
 自分が漫画家としてデビューする前から、第一線で活躍する作家。みなみの小説を読んで挿絵の練習をしたこともあった。
 夢だった漫画家としてデビューは出来たが、鳴かず飛ばずのままで単行本も一冊だけ。
 諦めかけた時、担当から挿絵をやってみないかという話があった。
 雑誌での単発で、漫画より収入はかなり低い。それでも、絵が描けるならと今まで細々と頑張ってきた。
 地方から上京してきて、生活は居酒屋のバイトで賄っている。
 昼間は絵を描き色々なイラスト賞へ応募しながら、やっと掴んだチャンス。
 桜子もBLをやっていたが、その絵を見たという飯野にスカウトされたのは男性向けの雑誌。
 自分に出来るのかと葛藤もあったが、思い切って行ったパーティーで会えたのが、憧れだったみなみ。
 以前も、BL雑誌のパーティーで見かけたことはあった。でも有名な作家仲間ばかりで、近寄ることも出来ないまま。
 今回のパーティーでは、飯野が名前を呼んでいた。それに一人。思い切って声をかけると、気さくな人で安心した。
 絵師は、最初から誰の挿絵をやるか決まっているわけではない。定期的に編集に見本イラストを送っておき、その中から作家が選ぶとは桜子も知っていた。
 男性向け雑誌では、やはり男性的なタッチのイラストが多い。選んではもらえたが、自分の挿絵でみなみの作品を台無しにしたくない。
 今の電話で、みなみの初稿が届くのは明日の午前中だと言われた。
 挿絵の箇所は編集からの指定だしまだ初稿の段階だが、発売より先にみなみの小説が読める。それも楽しみだった。
 久し振りの絵仕事(えしごと)。バイトへ行く前に少し描いてみようと、桜子はデスクに向かった。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 美波はタクシーに乗っていた。二稿目を送った後会いたいと言われたのは、都心にあるホテルのバーラウンジ。
 それも、もう日が暮れてから。


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