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官能小説家のリアル
第4章 戸惑い

メールでの急な連絡で、電話で確認しようとしたが飯野は捕まらない。
取り敢えず行ってみるしかないと、少しだけお洒落をした。都心なだけに、ジーンズというわけにもいかない。
直哉からは、今日は残業で寄れないという連絡が入っている。その代わり明日の金曜の夜から泊まり、次の日にネックレスを買いに行く約束をした。
本当は、ネックレスが欲しいわけではない。直哉と出かけられるなら、どこでも構わない。
直哉が言ってくれた、“ずっと、いっしょにいたい”。それは、美波も同じ気持ち。
二十四時間毎日、という意味では無いが、せめて直哉が仕事から帰ってずっと同じ空間にいられたら。話さなくても、心は寄り添っていられる。
窓の外には高層ビル。目的の場所でタクシーを降り、美波はバーラウンジへ向かった。
薄暗い店内では、シャンデリアがロビーのものより煌びやかだと感じる。
店員に声をかけられた時、奥のテーブルで飯野が手を挙げていた。
「こんばんは。ここだと、原稿が見づらいですよ?」
「原稿は、持って来ていませんが?」
「え? あの……」
不思議に思い、美波は頭を下げてから向かいへ座わる。
「打ち合わせじゃ、ないんですか?」
「はい。お誘いしたんですが。デートとして」
今度は美波も声が出ない。
「えっと?」
「メールには、打ち合わせとは書いていません」
今メールを確認しようにも、パソコンは無い。二稿目を送った翌日だったから、美波は勝手に打ち合わせだと思い込んで来た。
「来て頂けて嬉しいです。何を呑みますか?」
「私……。打ち合わせだと思って、来たので……」
考えてみれば、確かにおかしい。打ち上げやパーティーなら分かるが、バーラウンジでの打ち合わせなどしたことがない。
最近忙しすぎて、美波はメールを読み流していた。
「お酒は、あまり……」
普段アルコール類は呑まない。マンションでビールを冷やしてあるのは、直哉に出すため。そのビールが無くなったから、箱で頼んでおくと昨日話したばかり。
「では、任せてください。口当たりのいいものを選びます」

