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官能小説家のリアル
第5章  関係


 玄関ドアの閉まる音を聞き、美波はそっちを向く。
 ベッドから玄関は見えないが、直哉が出て行ったのは分かる。
 彼を傷付けてしまった。
 理由はどうであれ、それが苦しい。本当は優しい直哉を。
 涙が止まらない。
 スカートを直すのも忘れ、美波は腕を目に載せる。
 男性向けの仕事を受けてしまった時点から、色々なことが変わっていった。
 心配したり、不安に襲われたり。でもそれは、自分だけの問題。
 それだけで済めば、こんなことにはならなかった。
 直哉にまで心配をかけ、不安にし、こんな結果を生んだ。
 軽率というレベルではない。
 初めから直哉のことを話しておけば、飯野もあんな行動に出なかったはず。
 溜息をついてからゆっくりベッドを降りると、直哉の出したものが太ももを伝う。
 彼はいつも、こんなこともしない。
 それくらい哀しませてしまったと思うと、美波は涙が止まらなかった。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 自分のマンションへ戻った直哉は、鞄を投げてスーツのままベッドへ俯せる。
 美波が男といたのを見て、頭に血が上ってしまった。
 それも、自分より格上の男。
 ファミレスで初めて見た時も思ったが、顔もスタイルもいい。その上“編集長”など、直哉には太刀打ち出来ないのが悔しかった。
 その悔しさを、美波にぶつけた自分に腹が立つ。
 美波は話をしようとしていが、それを聞くのが怖かった。
 別れを切り出されたら。
 あの男を選ぶと言われたら。
 美波と自分は、何の保証もないただの恋人。美波が別の男を選んでも、縛り付ける権利はない。
 その時、黙って去ることしか出来ない。
 そう思い、直哉はまた出てきた涙を拭った。
 お互いに好きだと言い合っているだけ。
 直哉は以前の恋人との間に、忘れられない苦しい過去があった。すぐに別れたが、自分の愛情が足りなかったのかと悩んだ。
 だからこそ、美波を一所懸命に愛した。
 仕事で疲れていても帰りに寄るのは、“オレはいつも傍にいる”という意味のつもり。


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