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官能小説家のリアル
第5章 関係
「失礼します……」
普段は元気な桜子も、初めての編集部に緊張してしまう。
テレビドラマで観るより、もっと乱雑。
どのデスクも書類が高く積まれていて、必要な物が分かるのか心配になるほど。
桜子へコーヒーを出すと、飯野はパーテーションを戻した。
「すみません。落ち着きが無くて。でも、いつものことです」
「いえ……」
美波からのメールを読んだ飯野は、編集部へ桜子を呼んだ。
「早速ですが。この挿絵、もう少し動きと迫力を出してもらいたいんですが」
飯野が桜子の前に出したのは、美波の挿絵の騎乗位の物。
「動きと、迫力……」
「はい。臨場感、ですかね。読者がこの挿絵を見ただけで興奮するような、生々しさを」
BLの挿絵の時は相手が女性で、打ち合わせはメールか電話だった。だから桜子も相手も照れ笑いしながら話したが、目の前の飯野は真面目な表情。
桜子も、美波が出たイベントに出店していて飯野にスカウトされた。プロの漫画家でも有名ではないため、スペースは美波と大分離れた場所。
合間に美波の新刊を買いに並んだが、離れていた美波には気付かれもしなかった。
ただのファンの一人と桜子は気にしていなかったが、パーティーで見かけ、飯野をダシにして話しかけることが出来た。
そして舞い込んだ、挿絵の仕事。
一所懸命描いたつもりだが、やはりレベルが高いと痛感している。
「視点を変えるのはいかがでしょうか。もう少しだけ正面からにして、載っている女性を見上げる感じに」
飯野が挿絵を示すために下を向くと、ライトが綺麗な陰影を作る。元々彫刻のような顔立ちに、それが美しく映えていた。
「桐島先生? どうかしましたか?」
「い、いえっ」
飯野に見惚れていた桜子は、見つめられて慌ててしまう。
「そうですね……」
横の棚から出した紙に、飯野が楕円だけで構図を描く。
「向きは、こんな感じで。絵自体は、とても素晴らしいと思います。以上です」
「ありがとうございます。あの……」
「はい?」
飯野に笑顔を向けられ、桜子は首を振った。