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官能小説家のリアル
第5章  関係


 いつも会社帰りに寄るため、こうやって美波に会いに行くことは少ない。
 週末で美波が忙しくない時は、会社帰りにそのまま泊まっていた。部屋着や普段着もおいてある。
 そうやって自分の物が美波の部屋に増えて行くのを、嬉しいと思う。
 いつもより、電車が遅いと感じた。
 最寄り駅でドアが開くと、直哉は急いで階段へ向かう。
 その時向かいのホームに美波がいることには気付かずに。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 美波もまた、人混みで直哉には気付かない。
 探していれば遠くからでも分かるが、まさか同時刻に彼が向かいのホームにいるとは思いもしなかった。
 電車に乗った美波も窓の外を眺め、どこの書店へ行こうかと考える。
 大きな所なら、自分の本もあるだろう。たまには、棚に並んでいる様子を見るのもいい。
 初めて新書が出た時は、書店まで見に行った。
 自分の作品がポップ付きで並んでいるのを見て感激し、こっそり写真を撮ったのを思い出す。
 雑誌でのデビューから八年。美波は走り続けてきた。
 その間に恋人もいたが、美波の忙しさに合わせられずいつも半年ほどで別れることに。
 直哉と付き合うと決めてからも、その不安はあった。でも直哉は、いつも美波のペースに合わせてくれる。
 手が離せないくらい忙しい時は、マンションに寄らない。その代わり、応援のメールをくれる。
 直哉はアウトドア派なのに、疲れている美波に合わせてマンションに会いに来てくれる。
 車内アナウンスを聞き、美波は次の駅で降りた。
 直哉の住む最寄り駅。
 一晩経って、直哉も少しは話を聞いてくれるかもしれない。
 聞いて欲しい。
 きちんと話したい。
 飯野との仕事を捨てても、構わないと思った。
 もし直哉が望むなら、仕事全てを捨てても。
 駅からバスに乗り、見覚えのある停留所で降りる。
 美波が直哉のマンションを訪れるのは、付き合ってから四回目。
 目印になる赤い屋根のバン屋の、角を曲がった所。
 男性だからオートロックではない。
 二階の部屋に“相良”という直哉の苗字を見つけてホッとする。


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