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官能小説家のリアル
第6章  アプローチ


 美波は、わがままを言ったことが無い。仕事で忙しいのはわがままとは違う。
 直哉はすぐ美波のことを考えてしまうのに、さっき恋人がいるか訊かれた時にはっきり言えなかった。
 自然消滅。そんな言葉が頭に浮かぶ。そんな風に別れるのは嫌だった。
 別れるならきちんと話をして、お互いに納得してから。でも納得出来る別れなど、本当にあるのだろうか。
 そう考えた直哉は、恵梨香に口を開いた。
「畑中さんも、恋人がいたことはあったよね? どうやって別れたの?」
「どうやって? それって、どうして?、っていう意味?」
 恵梨香が不思議そうに訊いてくる。
「え……。あ……。そう。それ……」
 何とか合わせたが、直哉は混乱してはき違えていた。
 “どうして”と“どうやって”は全く意味が違う。
 直哉はいつの間にか、“どうやって別れよう”。と、別れる方法を考えていた。
 美波に訊くなら、“どうして別れたい”のか。
 一緒にいたいとばかり言い、会社帰りによく寄る。そんな恋人は重かったのかと。
 学歴も会社もぱっとしない恋人が、嫌になったのかと。
 彼女との出会いは、奇跡のような偶然。
 美波は外出が少なく、異性と出会うチャンスが少ない。だから告白をされて、一応受け入れてしまったのかもしれない。
 でも今度は、いい出会いがあった。イケメンの編集長と。
 それならそうと、きちんと美波の口から聞きたい。そうすれば、不本意でも身を引く覚悟はある。
 好きになった人だから、幸せになってもらいたい。
「五、六年前かな。同い年で、大学から付き合ってたの。お互いに就職して、忙しくなって、すれ違いばっかりで」
 直哉は、恵梨香の話を聞いた。女性の心理は、良く分からない。
「会社の呑み会があるから、デートに行けないって言ったら、怒っちゃって。そんなことが何回かあったかな……」
 会社の呑み会。それは直哉にも経験がある。とくに新人は断わりづらい。
「俺と会社の呑み会、どっちが大事なんだ、って言われて。そういう問題じゃないでしょう?」
「うん」
直哉は、美波に照らし合わせながら頷いた。


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