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官能小説家のリアル
第6章 アプローチ
恵梨香が、少し遠くを見るような目になる。
「会えないまま、時間が過ぎちゃって。お互いの仕事でね。だから、会って話し合ったの。会わなくても平気なら、別れようかって。で、別れることにした」
話し切ったという感じでジョッキを空けると、恵梨香は店員の方へ上げて見せた。
「生くださーい!」
「畑中さんは、それで良かったと思う? 好きじゃなかったの?」
直哉が訊いた時、威勢のいい声で店員がジョッキのビールを持ってくる。
「んー。昔だからなぁ。でも、好きだったよ。好きでも、上手く行かないことってあるじゃん? 結果的には、別れて正解だったかな。ズルズルするよりはね」
ズルズルするよりいい。
そうかもしれない。直哉もそう思った。
前の恋人とのこともあり、臆病になっていた部分もある。
だから美波を愛そうと、直哉は必死だった。
美波が好きなのは嘘ではない。そうでなければ、彼には会社で出会いもあるし、美波に拘る理由がない。
でもどんなに想っても、叶わない恋があるのも頭では分かっている。
どんなに美波が好きでも、彼女が他の男を選んだなら。
「やっばりさ。二流大出でそこそこの給料じゃ、女性に選ばれないよね?」
「その子によるんじゃないかなぁ……。玉の輿狙いだったり? 私は、性格重視だけど。相良くん、呑んでないじゃん。呑め呑め。生、おかわりくださーい!」
勝手に頼まれ、直哉は半分ほど残っていたのを飲み干した。
「この前ネットニュースで見たけど、世界人口がもう七十億人だって。その半分が異性だとしたら、まぁ、年齢とか考慮しても、十億人以上は候補がいるわけじゃん? 生。もうひとつー!」
恵梨香はいつの間にか呑んでいる。
十億人と言われても、外国人では出会いが無いし言葉が通じない。
でも、美波は一人しかいない。直哉はそう考えていた。
割り勘にして居酒屋を出ると、恵梨香が駅の入り口とは別の方向へ歩き出す。
「畑中さん?」
「もう一軒行こう? 休み前じゃん。呑む相手がいない者同士、慰め合おう? なんてね。行くよー」