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官能小説家のリアル
第6章 アプローチ
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
言われた店に着いた美波は、桜子を見つけて席に座った。飯野はいない。
「みなみ先生。ありがとうございます。すみません」
「んー。いいけど、どうしたの? 飯野さんは?」
「まだ、約束の三十分前なんです」
桜子が腕時計を見て言う。
「えっと。説明、してもらえる?」
「はいっ」
挿絵のことで相談があって飯野に電話した桜子は、思い切って呑みに連れて行って欲しいと言ってみた。いつがいいかと聞き返され、早い方がいいと思い今日と言ってしまう。すると飯野は、案外簡単に「いいですよ」と答えた。
嬉しい反面、二人切りで何を話せばいいか分からない。考えた桜子は、共通の知り合いである美波に助けを求めて電話した。
その説明を聞き、美波は飯野も割といい加減だと思ってしまう。それとも、本当に優しいだけなのか。とにかく、飯野がよく分からない。
「飯野さんて、イケメンじゃないですかぁ。背も高いし。編集長だし。性格って、どうなんですか?」
「それなのに、狙ってるの……?」
美波にはピンとこなかった。性格も知らずに、“狙ってる”など。
確かに飯野は、桜子の言う通りだと思う。でも、見かけより大事なのは性格。
美波が直哉と付き合おうと決めたのも、彼の誠実で一所懸命な所を好きになったから。
申し込まれてから返事をするまで少し考えさせて欲しいと言い、その間も会ってはいた。
美波は試しに部屋へ呼んでみたが、彼は少しも触れたりしない。返事をしようとした前に直哉に訊くと、“ちゃんと付き合うまではダメだから”。と言われたのを思い出す。それで美波はこの人なら、と思い交際を始めた。
「みなみ先生?」
「あっ、ごめん。あの、先生はいらないから」
挿絵家も最初は、作家を“先生”と呼ぶ。そのうちパーティーなどで顔を会わせる機会が増えると、お互いに“さん”や“ちゃん”付けで呼ぶようになっていく。
「じゃあ、美波さん?」
「うん。桜子ちゃんでいい? 年下アピールになるよ?」
何度かメールして、お互いの年齢は知っていた。