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官能小説家のリアル
第6章 アプローチ
年齢を言わない作家も多いが、美波と桜子はまだ若い。それでも、通例的に読者には公表していなかった。
「こんばんは。楽しそうですね」
「飯野さん!」
桜子が笑顔全開になる。
「あ、美波さんは、何を呑んでいるんですか?」
話が先になり、注文するのを忘れていた。桜子は既に、何かカクテルを呑んでいる。
「私は、ジュースで」
「呑まないんですか?」
二人の前に座りながら、飯野が訊く。
「この前は……」
「桜子ちゃんっ! メニュー取ってっ!」
美波に言葉を遮られ、飯野はそれ以上言わない方がいいだろうと思った。
飯野は、美波に恋人がいるのに気付いている。
「この後も、仕事が残ってるので……」
そう言った美波のジュースと一緒に、飯野はウイスキーのロックを注文した。
美波が言ったことは本当。書き上げた原稿は、短い“寝かせ”をしている。その間に、次の原稿をやる予定。
書き上がった原稿は、見直しをしてから一度放置する。出来れば一週間以上書き上がった原稿を離れてから推敲に入ると、気付かなかったアラが自然に見えるもの。
きちんと読者への説明がされているかは重要。自分は分かっているからそのつもりで書くが、勿論読者は内容を知らずに読む。説明不足だと、きちんと伝わらないままになってしまう。敢えて伝えない部分と、しっかり伝える部分。メリハリも必要。
「みなみ先、さん。忙しいですもんねぇ。色々な雑誌で書いてるし。凄いなぁ、って思います」
桜子がしみじみと言うが、今日はそういう場ではない。美波は考えて、桜子の話題を振った。
「桜子ちゃんの絵、凄く素敵ですよね。線が繊細で。それなのにリアル過ぎないのって、本当に凄いと思う」
「確かに。僕が見込んだだけのことはありますよね」
飯野が、冗談めかして笑う。
「桜子ちゃんは、料理とか得意? 私全くで、いつもデリバリーかコンビニなの」
「あ、はい。居酒屋でバイトしてるから、たまに厨房にも入ります。得意って言うか、好きです」
やっと桜子のいい話題になってきて、美波はホッとした。