この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
官能小説家のリアル
第1章 新しい仕事

来たのは直哉。またコンビニの袋を提げている。
「忙しい?」
「ん。ちょっとね……」
予定外の新書と同人誌。他の仕事も残っていた。
小説家は一人でやる仕事。担当はいるが、作業にアシスタントなどいない。時間に追われ、あっという間に一日がすぎる。
「じゃあ……。はい」
袋の中を探った直哉が、弁当を一つ渡してくる。
美波は、直哉のこんなところを好きになった。
会社帰りに寄ってくれるが、忙しいと食事を差し入れて帰って行く。
「平気。上がって?」
「いいの?」
「うん。食事は一緒に食べよう? でも、それ以上は時間が……」
セックスは無理と言う意味。
それだけの時間なら何とかなる。でもその後シャワーを浴びたり、髪を乾かしたりする時間が必要。
普段は、昼頃起きた時にシャワーを浴びている。
「分かってるって」
直哉が笑顔でリビングへ行く。
「あっ、でもこれはいいだろう?」
頭を引き寄せられ、優しいキスの後また笑顔。
そんな様子を見ると彼に悪いと思ってしまうが、時間だけはどうにもならない。
一緒に弁当を食べながらの会話は、また美波の仕事のこと。
「ん。今、ネット用の初稿(しょこう)やってる」
「初稿?」
直哉は考えるような表情。
「プロットを出して、担当さんからOK出たから、最後まで仕上げる最初の原稿のこと。一稿(いっこう)とも言うけどね」
「プロットに、担当さんからOKが出なかったらどうするの?」
「んー。メールで日時を決めて、電話で打ち合わせ。ここをこうした方がいいんじゃないか、とか。新人の頃は多かったけどね」
直哉が、ご飯を掻き込みながら聞いている。
「あっ、桃から連絡が来て、八月のイベントに出る予定だから」
桃恵のPNは“桃”。それもあり、美波は直哉には桃と言っている。
「また盆休み?」
「ん。ごめん……。直哉?」
美波からキスして、彼を見つめた。
「少し、なら……」
直哉にとっては大歓迎。
内容は難しくても、美波が忙しいのは分かっている。それでも、少しでも長く傍にいたい。30歳の健全な男性として、好きな相手とセックスもしたかった。
スクリーンセーバーに変わった灯りの中だけで、ベッドへ。

