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没落お嬢さま
第35章 第三十四夜
第三十四夜
次の日の夜も、亮生は沈み込んだままだった。
一昨日は、よっぽど辛い経験をしたのかもしれない。
いずみが彼の部屋に夜食を届けても、やはり、彼は、彼女の方を見ようともしなかったのだった。
「ご主人さま。夜食をお持ちしました」
と、いずみは、いちおう、先に声を掛けてみた。
「今日も、いらないよ」
机にうつ伏せたまま、亮生は、すぐに答えたのだった。
「ご主人さま」
「君も、いい。さっさと出て行ってくれ」
そうは言われても、いずみは、ちょっと立ちすくんでしまったのである。
「ご主人さま?」
いずみが話し掛けても、亮生は答えようとしなかった。
「ご主人さま。もしかして、お泣きになられているのですか?」
いずみの問いかけは当たっていた。
亮生は、今、すすり泣いていたのだ。
静かな部屋の中で、その泣き声がいずみの耳にも聞こえていたのだった。