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没落お嬢さま
第35章 第三十四夜
「悪いか!僕にだって、泣きたい時はあるよ。
だから、僕を一人にさせてくれ」

亮生は、ヒステリックにわめいたのである。

彼は、表面上は穏やかな人格を装っていたが、内面は、とても感情の起伏の激しい人物だった。
こうして悲しみだせば、きっと、とことん引き摺り続ける事になるのだろう。

その事は、このひと月ほどの付き合いで、いずみも、しっかりと把握していた。

恐らくは、この負の精神状態が持続している限りは、亮生も、いずみをいたぶって、楽しもうと言う気分にもならないに違いあるまい。
それは、いずみにとっては、好都合な状況だったはずなのだ。

ところが、ここで、いずみは、自分の方から、そっと亮生のそばへ歩み寄ったのである。

彼女は、背後から覆うように、亮生の体を静かに抱きしめたのだった。

この彼女の突然の行動に、亮生は驚いたようだ。

「な、何してるんだよ」

そう怒鳴って、彼は動揺しながら、ようやく、いずみの方に振り返った。
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