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没落お嬢さま
第35章 第三十四夜
「ご主人さまも、辛い思いをなされているんですね」

亮生に抱きついたまま、いずみが落ち着いた声で言った。

「何だよ?ザマミロとでも思ってるのかよ」

「そんな事、ありません」

「じゃあ、何だ?同情でもしてくれてるのかよ」

「それも違います」

「ふん。でも、結局は、自分をよく見せたかっただけなんだろ?
そんな事をすれば、僕のご機嫌取りができるとでも思ったんだろ!
へっ!そうは行くもんか!僕は、君の浅知恵に引っかかるようなバカではないからな!
君みたいな性悪女なんかには、絶対に何もあげはしないぞ!」

亮生は、一方的に、激しく、わめき続けたのだった。

だが、いずみは、何も答えはしないのである。
ただ、亮生の体を、優しく抱き続けていたのだ。

「大体、君みたいな召使いなんかに、僕の気持ちが分かるものか!
大財閥の御曹司として生まれた僕の苦しみや重圧がな!
これは、しょせん、他人には分からない悩みなんだ!」

「いえ。分かりますわ。
だって、私も、以前は上流社会の令嬢だったんですもの」

そう言って、いずみは顔を上げ、亮生を真っ直ぐに見つめたのだった。

いずみの顔を見て、亮生もハッとしたのである。

いずみは、目から涙を流していたのだ。彼女も泣いてくれていたのである。
確かに、彼女も、金持ちの子息にしか分からない悩みや苦しみを知っていたのだ。
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