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没落お嬢さま
第5章 第四夜
第四夜
いずみの出現は、味気ない生活を送っていた亮生に、ちょっとした楽しみを与えたようだった。
由緒正しき富豪の家系にと生まれた亮生には、何しろ、自由というものが無かったのである。
彼は、立派な跡継ぎとして、何も汚点を残さぬようにと、幼児期から厳しく育てられていて、その日々のいっさいを他人によって管理されていた。
屋敷の外に出た時は、どこで過ごして、何をしたのかを、逐一、事前報告せねばならなかった。
また、抜き打ちで、その報告が事実かどうかも調査されたので、絶対に虚偽の申告もできなかったのである。
同じように、彼の個人的出費の内訳や、屋敷に届く彼への配達物、彼が用いた通話・通信の内容に至るまで、全てが必ずチェックを受けていた。
亮生にとって、夜9時以降の自分の部屋に篭る時間帯だけが、誰からも干渉されないで済む、唯一のひと時だったのである。
屋敷内での亮生の行動は制限されていたので、彼の後見人たちも、まさか、部屋の中でおかしな事もするまい、と油断していたのだった。