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没落お嬢さま
第7章 第六夜
「いいだろ。ちょっと、キスしてみよう」

「でも、キスする意味が分かりません」

いずみは、真っ当な意見を返した。

「おいおい。最初にキスしてきたのは、君の方だろ。
なぜ、今は嫌がるんだよ?」

「嫌がってるのではありません。
キスする理由が見つからないと言ってるんです」

「僕たちは、もともと、婚約者だったんだぜ。
結婚してたら、いくらでもキスしていたはずなんだ。
なぜ、今はキスできないって言うんだよ?」

そう言いながら、早くも亮生は椅子から立ち上がり、いずみの方へと歩み近づいていた。
横暴な主人である亮生には、まるで理屈も道理も通用しないのである。

いずみは、困惑しながらも、亮生の接近を許していた。

そして、いずみの目と鼻の先まで近づいた亮生は、躊躇なく、いずみの唇へと自分の口を押し当てたのである。
それは、二人にとって、二度めの接吻だった。

今回は、以前のような、香水の匂いは確認できなかったようだ。
いずみも、どうやら、自分の今の身分を自覚して、上質の香水の使用は控えたものと思われる。

彼女は動かずに、されるがままに身を任せていた。

でも、さほど時間も経たないうちに、亮生は、すぐに自分の体をいずみから離したのである。
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