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没落お嬢さま
第7章 第六夜
「フン。キスなんて、大したものでもないな」

と、吐き捨てるように、亮生はうそぶいた。
だが、彼の目には、キスし終えたばかりのいずみが、なぜか、笑っているように見えたのである。

「なんだよ?」

亮生は、顔を引きつらせ、思わず、いずみに食ってかかった。

「ご主人さまは、キスをするのは、はじめてですか?」

いずみが、笑みを浮かべ、おかしそうに言った。

亮生は、その問いかけに対しては答えなかった訳なのだが、彼にだって、プライドと言うものがあるのだ。

「もう一度、キスしてみましょうか」

澄んだ声で、いずみが提案した。

亮生の方は、複雑な気持ちになっていて、自分の意思を表明できなくなっていた。
すると、今度は、いずみの方が、自分の唇を亮生の口もとへと近づけてきたのである。

亮生は、大きく目を開いて、ギョッとした。
いずみの仕掛けてきたキスが、ただ口と口を合わせたものとは、全然、違ったからである。

それは、亮生の知識には全く無かったキスの作法だった。
いずみの唇は、独立した生き物みたいに、激しく、亮生の口もと周辺を責め立てたのだ。

それだけではない。いずみの舌もまた、とても積極的だった。
その舌は、野獣のように、亮生の口腔にと襲いかかったのだ。
本当のキスとは、かくも、野蛮で情熱的なものだったのである。

亮生は、いずみに、一方的に弄ばれたままだった。
しかし、それでも、すっかり高揚させられてしまったのだ。

ようやく、いずみが、自分の口を亮生の体から遠ざけた。

彼女は、よだれで濡れた口もとを手の甲で拭っていたが、亮生の方は、両膝をついた格好で、まだ呆然としていたのだった。
うつろな彼の瞳には、前方にいるいずみが、得意げであるかのようにも写っていた。
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