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呟き…
第5章 どこまでが浮気…2



私の頭の上にある手は相馬さんの手だ。

私の頭を簡単に撫でる人はお父さんか悠真だけだったはずなのに…。


「楽しむ為に連れて来たんやで?そないに暗い顔とかされたら心配や。」


相馬さんが私の顔を覗き込む。

近いっ!

そう叫びたくなるほど私の目と鼻先という距離に相馬さんの顔が存在する。


「うひっ!」


思わず引く…。


「何故…、引く?」

「引くでしょ!?」

「なんか傷付くわ。僕って…、そんなに危ないオッサンに見られてるんやろか?」


わざとらしく相馬さんが大袈裟に嘆く。

ただ笑ってた。

私を笑わせようとする相馬さんに笑うてもうた。


「そないして笑うてたらええねん。」


馬鹿みたいに笑う私に相馬さんは穏やかな笑顔を向けてくれる。

何があっても笑えばええと私に言う悠真と同じ事を相馬さんから言われるとか思うてなかった。


「でも、笑えん時もあります。」

「そりゃ、人間やからな。けど…、笑えん奴と笑える奴なら笑える奴のが幸せやで…。」

「そういうもんかな?」

「そういうもんや。」


お父さんの手術の度に悠真は私に笑えと言うた。

私は無理には笑えんと何度も悠真の言葉を拒否して来た覚えがある。

笑うても不幸なのは変わらないと思うてたから…。


「まあ、とにかく今を楽しむのが一番なんやて…。」


私の頭をぐしゃぐしゃと撫でてから相馬さんが車から降りる。

私の知らん間に車は目的地に着いてたらしい。

今を楽しむ…。

相馬さんが言う意味がわからない。

私が降り立った場所に悠真は居ない。

保護者である悠真が居ないのに私だけが楽しむとか出来る気が全くしない。

空に放たれた風船のように不安定なまま、フラフラと自分が漂ってる感覚だけがそこにあった。


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