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海猫たちの小夜曲
第2章 絶望の始まり ~海色のグラスと小麦色の少女①~
 5月も末になり、あたしたちの水泳部も、ようやくプールでの練習が始まった。
 楽しくもないシーズンオフのトレーニングから解放されて、ようやくプールで練習できるようになったのに、あたしの心は一向に沸き立たなかった。
 秀隆が、3日と開けずに、あたしの部屋にやってきては、あたしに性処理を要求していたからだ。
 あたしはもう秀隆とのことを「性処理」として割り切ることにしていた。
 これはペニスを刺激して精液を出してやる、というだけの単なる作業だ、というふうに。
 相変わらず秀隆は、あたしのことを肉便器呼ばわりしてきて、何度かは押し倒されて生で挿入されていた。仕方なく、あたしは自分でコンドームを買い、できるだけ秀隆に付けさせるようにしたが、そういうことも含めて、あたしは半ば諦めた感じになりつつあった。

 一度、叔母に、秀隆があたしにしていることをできる限り縮小して伝えたが、結果的には失望させられただけだった。
 夜の叔母は、居間でお気に入りのドラマを見ているか、近所の奥さんに誘われて始めた個人投資がらみでPCを開いて株のチャートを睨んでいるか、どちらかしかない。
 その日はPCの方で、あたしは少しでも叔母の機嫌を良くしてからと思い、コーヒーを淹れて、叔母に差し入れながら切り出した。
 最近、秀隆が勝手に部屋に入ってきたり、体に触ってきたりして困っている。
 あたしの嫌がる声を聞いたこともあるはずだ、とあたしは叔母に話した。
 けれども、当の叔母はノートPCから顔も上げずに、あたしにこう言ったのだった。
「……秀隆はね、受験を控えて今が大切な時期なのよ。精神的に落ち着かなくてイライラしてそういうことをしているだけなの。あなたもわたしたちの家族なら、そのあたりを理解してあげて。一時的なことだから。」
 あたしは叔母のそっけない態度と、言葉に絶望した。
 要するに叔母の言うことは、あたしは秀隆に何をされても我慢しろ、ということだった。
 叔母が、実際に、どこまで知っているのかはわからなかったが、これでは、助けを求めるだけ無駄だ。

 幼馴染の文也や、それ以外にも親しい友達はいたけれども、あの写真をばらまかれる恐怖を考えると、そういう人たちに、今のあたしの窮状を話すわけにもいかなかった。
 
 必然的にあたしの口数は少なくなり、日常のあらゆることが空疎に感じられていた。

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