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海猫たちの小夜曲
第2章 絶望の始まり ~海色のグラスと小麦色の少女①~
 まるで行き場のない状況のなか、あたしが落ち着けるのは、バイトの時間だけだった。
 少なくとも、土日に先生のバディとして海に潜っているときだけは、素のままのあたしでいることができる。
 
 性処理の道具でもなく。
 家族という組織で、一方的に犠牲に供される存在でもなく。
 バイトの中には、わたしの居場所も、存在する理由もちゃんとある。
 
 それは、あたしの願望そのものだった。
 わたしは今の窮状からのはけ口をもとめるように、平日もバイトに精を出すようになり、水泳部には、ダイビングショップが休みになる月・火にしか顔を出さなくなっていった。

 そして、ある日、あたしはバイト後の帰宅ついでに、先生の家への差し入れを頼まれた。
 塩焼き用の鰤のカマがいくつか余っていて、廃棄するのももったいないので、お得意さんの先生にあげようということらしい。
 先生の家は店長が教えてくれたが、取り立てて迷うような場所でもなかった。
 この街の住宅事情なんて、たかが知れていて、ああ、あの新しくできたログハウスの主が先生だったのか、という感じだったのだ。

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